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その事件があんまりに衝撃的だった男性社員に二ノ宮さんは陰で「くみちゃん」と呼ばれている。
ニックネームがよく使われるうちの会社でも、さすがに「くみちゃん」はないと思う。
組合に訴えた、くみちゃん。
営業の部長に週末にゴルフに呼びだされて、人事の上原と一緒に回っている間に、この話を持ち出した。
「それ、二ノ宮さん、自分の被害だけで訴えた訳じゃないらしいよ」
上原が会社同士のコネで聞いた話をしてくれた。
「あそこ、二ノ宮さんがそのセクハラする取引先との接待を拒否したら、そこには新入社員の女の子つけるようにしたらしくって。それで、上司に言っても埒が明かないって組合へ行ったらしいから」
聞いているその会社は、中堅の会社だけど、やり口が古い。
文句の言えない若い子を担当にして、取引先のセクハラをなんとかごまそうとしたんだろう。
上原曰く、
「うちも古いけど、そんな事、ありえない。だけど、念の為、海外事業部にした」
らしい。
海外事業部は、国際的な付き合いも多いから、セクハラのような事もかなり前から気をつけていて、女性社員に個人的なお茶汲みをさせたりするという習慣もない。
「大の下なら、大丈夫だろ」
眼鏡の奥が笑っていない。
同期の上原は、俺が社内の子には手を出さないのを重々知っている。
二ノ宮さんを俺のサポートに付けることを課長と相談しているらしい。
「変なあだ名、やめろよ」
物腰が柔らかく、ハンサムだと女子社員に人気の上原だけど、仕事の事となるとしっかりしている。
「ん。分ってるわ、そんな事」
それも、さっそく本人にバレて、謝ることになる。
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