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一度、残業中に同じように、自動販売機に飲み物を買いに行って、ちょうど電話しているサトダさんに出くわしてしまったこともある。
「んー、悪りぃ。また、連絡するし」
あ、まずいタイミングだと思った時にはすでに遅かった。
ぱっと自販機の前へ歩いて行ってしまって、バッタリ。
電話を片手に、自販機を見ていたらしいサトダさんがぱっと、肩越しにこっちを振り返って、目が合った。
ちょっと気まずい感じで、お互い、会釈して、私は隣の自販機でミルクティーを探した。
「ん、はい。じゃね」
すぐ電話を切ると、サトダさんが、ちらっとこっちを見て、
「遅くまで、お疲れです」
とこちらに話しかけてきた。
サトダさんは、もうネクタイを取って、上のボタンを一つ外している。
「お疲れ様です」
何にも言わないのもおかしいかなと思って、口を開く。
「彼女さんですか?」
「んー、いや……あ、まぁ、そんな感じの人ですかねぇ」
あんまりに曖昧な表現に苦笑いしてしまいそうになる。
苦笑いを隠して軽く頷いて、そうですか、と返事をすると、サトダさんは、自動販売機を指さした。
「二ノ宮さん、おごりますよ。どれですか?」
「いいです、大丈夫ですよ」
申し訳ないから、お断りした。
「ハハハ。口止め料ですよ」
ヘラヘラっと笑っている。
「え?あ、そうですか。すみません。じゃ、ミルクティーお願いします」
口止め料か。おもしろい。
「温かいのでいいですか?」
お金を入れながら訊いてくれる。
温かい缶を頂いて、デスクに戻る。
もうしばらくサポートに付いているのに、私にはずっと丁寧語。
ずっと距離を置きつつ、優しい。
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