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二ノ宮さんに、サポートに付いてもらって、仕事面では、かなりありがたい。
仕事が丁寧だし、電話対応が上手い。
時に丁寧すぎて、電話の相手が彼女を離さない。
前職での電話口でのセクハラの件があるから、なるべく長話にならないように、仕事以外の話に巻き込まれているようなら、俺が変わって話を切り上げる。
自分も出張の際は、二ノ宮さんに電話をすることも多い。
仕事の話をしているのに、耳元で聞く彼女の声に、すこし自分がそそのかされそうになるのを感じる。
きれいな声をしている。
落ち着いていて、良い声だと思う。
仕事の堅いこと以外のことを、気軽に話してみたいと思う。普段、落ち着いてる分、笑ったり、困ったりしているのも聞いてみたい。
絶対に社内の子とは、そういう線を越えないつもりなのに。
社内の子はあり得ないと思っている俺でさえ、そういう気持ちになるんだったら、他のやつがどんな思いで彼女と電話で長話をしているのか。
新しいカフェだとか、週末のゴルフのスコアや、最近出かけた温泉がどんなに素敵なところかなんて、二ノ宮さんに話す必要あるか?
ペラペラ話をする奴らの下心が見えている。
大抵、彼女に長話をしようとするのは、年のいいおじさんらが多いのだけど、彼女の迷惑にならないように、さっさと切る。
「いつもすみません」
二ノ宮さんは、申し訳なさそうに頭を下げるけど、そんなの上司の仕事だ。
そういう風に、この一年弱で、いい仕事のパートナーになっていると思っていた。
いつも通り、うまくやっている。
そう思っていた。
あの忘年会迄は。
あれ以来、誤魔化してきた心のどこかを掴まれている。
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