1748人が本棚に入れています
本棚に追加
/208ページ
空港近くの小さなビジネスホテルの窓からは、ビルの屋上の赤いライトがいくつも見えた。
明日、着いたらミーティングが2件。
もうメールでアジェンダが送られて来ていた。
こちらから話すべき事を数点、頭の中でまとめる。
昨日、電話口で言われた数字が思い出せない。20k~25kだったと思うのだけど、記憶が確かじゃない。
オフィスに誰か残っていれば、メモ書きが机の上に貼ったままになっているはずだ。
事業部のデスクにかけると、二ノ宮さんが出た。
まだ残業していたらしい。
夜、一人の空間で彼女の声が耳に響くのは良くない。
メモ書きの数字を探してもらうと、丁寧にメモを写メで送ると言ってくれる。
そう言いながら、ふふっと笑う彼女の声が耳をくすぐった。
「何?」
あのメモに何か変な事が書いてあっただろうか。
「落書きがあったので。何でもないです」
何を書いたか、さっぱり覚えていない。
変なことを書いてないといいけども。
思い出そうとしていると、二ノ宮さんが
「明日、飛行機、早いんですよね? まだお仕事ですか?」
と聞いてきた。
明日は結構早いが、もう空港付近のホテルだから、問題ない。
「いや、もうホテルです。考えごとしてたら、メモのこと思い出して」
と、電話の理由を告げた。
「そうですか。あんまり働いてないで、寝てください」
優しい声が耳に響く。
二ノ宮さんが微笑んでいる気がする。
彼女のデスクに座って、受話器に当てた首をすこしかしげている。
そんなことまで想像した。
「ははは。うれしいな。心配してもらって」
なんとなく正直に口に出していた。
最初のコメントを投稿しよう!