二ノ宮さん

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 海外出張の際は、支社のお偉いさんと会食が続く。 今日も昼、夜と連れ出されて、ようやくホテルに戻って来た。慣れているといったって、さすがに、疲れた。 ホテルのバーがっしりした一人がけのソファーに座って、ウイスキーをロックで頼んだ。 斜め向こうに、さすがアメリカっていうサイズの大きめの暖炉が煌々と燃えていて、暖かい。 今日、紹介された人の情報を仕事用の携帯に入れておく。 連絡先のアプリをだして、整理していて、「二ノ宮杏」の名前に指が止まった。 一緒に働いているから、毎日、出張以外は顔を合わせている。 出張中も日本ならオフィスに電話することが多いから、今回のような海外出張で基本、メールだけのやり取りになると、すこし寂しいような気がする。 なんとなく声が聴きたい、と一瞬で時差の計算をする。 日本はまだ就業中だ。 仕事にかこつけてデスクに電話すればいい。 バカなことを考え出したなぁ、と自分であきれる。 最近の俺はおかしい。 プライベートの携帯を出して、連絡先を開けると、連絡をすればお酒くらいは簡単に付き合ってくれるだろう女性の名前が並ぶ。 遊びたいんだったら、この中の誰かに声をかければいいんじゃないかと思う。 しばらく携帯をいじって、顔も思い出せないような女の子の番号を消していく。 かける気がしないんだったら、消してしまえばいい。 『美和』と名前だけで登録した、元カノの連絡先で指が止まる。 消したらいいのに、まだ消せないでいる。 幼馴染だから、という理由で、そのままにしている連絡先に、数週間後には電話をすることになるとは、この時は思ってもみなかった。
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