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美和
専務が入院したという電話が専務の奥さんからあって、びっくりした。
「あいつが大げさですまんな。胆石だよ」
専務は謝っていたけど、一応課を代表して見舞いに行った。
専務は、入社したときからの付き合いで、その時はまだ営業部長だった。
営業部でずいぶんお世話になったし、今もゴルフに誘ってくれて、色々ご指導いただく。
課長が二ノ宮さんを連れていけというので、彼女に課長からのお見舞いの品を用意してもらって、一緒に出掛けた。
結構、元気そうな専務と、専務の奥さんに挨拶して、病院を出ようとした時、タクシーを待つ列の最前列に、美和がいた。
一年前に実家の近所で偶然会ったのが最後だけど、美和は、すぐにわかった。
来たタクシーに乗り込もうとしているのを見て、とっさに声をかけた。
振り返って、俺を見ると、驚いている。
そりゃそうだ。ここは、県立病院だ。
なにか具合が悪くなかったら、来ないだろう。
俺も同じことを心配して、久しぶりより、何より
「美和、大丈夫? 病院?」
と聞いたら、
「大ちゃんこそ、どうしたの?」
と聞き返された。
「仕事。上司が入院してる。見舞い」
病院を指して言うと、タクシーの運転手が「すみませんけどー」とせかしてきた。
うるさい。
「大ちゃん、また後で。タクシー、待たせると悪いから」
手に持っていた携帯をぽんぽんとたたく。
「ん、電話するわ」
簡単に電話する約束をしてしまった。
タクシーの列を少し待たせてしまって、近くにやってきた二ノ宮さんに「並びましょう」と促される。
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