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帰りのタクシーで二ノ宮さんは静かだった。
窓の外を見ながら、いろんなことをバラバラに考える。
美和のこと。
どうしようもない、過去の事。
そして、隣で静かに座って、なんにも聞いてこない、この女性の事。
会社に帰ると、お見舞いに行っていた分、仕事がたまっていて、ばたばたと一日が過ぎた。
後で連絡すると美和には言ったけど、そんな気力はなかった。
一日たつと、もう何を、どう言うつもりなのか、分からなくなった。
彼女と話すべきことがある。
だけど、それが許されることなのかわからない。
話せば、彼女は許すだろうし、始めから許していると言われるだろうけど、それで自分が許されるのかわからない。
そのまま東京へ出張になった。
ただ二ノ宮さんのエルマーを聴く。
また一章読み終わって、次第に終わりに近くなる。
「竜、もうすぐ自由になるな」
本が終わる前に、自分のけじめをつけないといけない。
「そうですね。もうすぐ終わりです」
終わりにしたくなくて、シリーズがあったことを思い出して聞くと、カナリア島へ行く第二話があるという。
カナリア島の話は、まったく内容を覚えていない。
「ふうん。読んでくれるの?」
何気なしを装って聞いてみる。
「いいですよ、サトダさんがお好きなら」
優しい声が誘う。
誘ってなんかないんだろうけど、俺の耳は自分勝手だ。
「好きだよ。聞きたい」
好意を駄々洩れにして、電話口で縋る。
美和に電話しないといけない。
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