二ノ宮さん

7/20
前へ
/208ページ
次へ
いつもなら、その辺で切り上げる電話だ。 「二ノ宮さんの声、眠気を誘導しますね」 「え? そうですか」 声が良いと言ってくれる人もいるけど、よく分からない。ちょっと低いのかもしれない。落ち着いているとか思われているのも、そのせいだろう。 「良い声ですよ。いつも、そう思う」 いつも? いつも、というところが微妙に心に引っかかる。 普段仕事していて、なにも言われないけど、そう思っているんだろうか。 「アナウンサーっていうか、朗読のお姉さんのようですよ」 サトダさんがさっと付け加えた。 あぁ、良い声なんて言ってしまって、また「くみちゃん問題」に引っかからないように、良い声の意味付けをしているんだなと気が付いた。 分からない程度に、さりげないから、機転の利く人と思う。 「はは。そうですか。今度、寝られるように、朗読しましょうか?」 電話がすこし長引くのがうれしくて、適当なことを言った。 「え。お話、何を読んでくれるんですか?」 今夜はサトダさんも、ガードが緩いらしい。 すこし考えて、 「えっと、『エルマーの冒険』覚えています?」 と、真っ先に頭に浮かんだ本のタイトルを言った。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1754人が本棚に入れています
本棚に追加