二ノ宮さん

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よくわからないまま、本棚に置いてある『エルマーの冒険』を手に取って、携帯をテーブルの上にそっと置いた。 そして、第一章を読み始める。 サトダさんは、寝られないんだろうか。 ゆっくり、そっと。 エルマーが猫に会う。 読みなれた文章を、携帯に向かって、声にする。 東京のビジネスホテルのどこかで、私の声がサトダさんの耳に入る。 1章読み終えて、ちょっと待つ。 子供の本だから、大人が寝るには、一章では足りないかもしれない。 なにも返事がなかったら、言われたように切ってしまっていいのかな? と思った頃、サトダさんが少しぼんやりした声で、 「猫に牛乳は本当はダメだよな」 と言った。 「そうですね」 「ありがと。おやすみ」 それだけ言って電話が切れた。
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