二ノ宮さん

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その出張の後、会社に来ると、サトダさんは普通のサトダさんだった。 あくまで、普通にバリバリ仕事をしている。 「おい、吉田。あれ、すごく見にくい。次フォント上げろよ。じじいが全員首傾げてたぞ!」 会議室で、入社三年目の吉田君が、すみません、と頭を下げている。 「サトダ、十年もしたら、お前もじじいの仲間入りだからな」 笑ってそう言いながら部長が通り過ぎていく。 「は? 俺、まだ36ですけど」 サトダさんが、部長に文句を言い返している。すごい。 「あ、二ノ宮さん、すみません。吉田、お前、手伝えよ」 会議室を片付けに来た私を見つけると、吉田君にお手伝いを命じて、自分のデスクに戻っていった。 「悪いね。吉田君」 「いや、いいですよ、僕の方が後輩ですし」 吉田君と一緒に片付けを終えて、デスクにもどったら、サトダさんは、もうどこかの人と電話をしていた。 あれっきり、朗読に関しては、メールも電話もなにもない。 いったい、何だったのだろうか。
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