二ノ宮さん

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 相変わらず、サトダさんは忙しい。 年度末に、サトダさんを含む業績上位者に出されたボーナスがすごかったという話を同僚にされて、 「ま、俺は社畜だからな」 と自嘲していた。 サトダさんのボーナスが多かったのは、外資系の引き抜きの話を断ったからだとも噂になっていた。あり得る話だと思う。 社畜でもなんでも、人に求められる人はすごいと思う。 その点、私の長所は結局、電話対応くらいだと思う。 落ち着いているとか、声が良いとか、話しやすいと言われる。 逆にそのせいで取引先の電話が長引くことがある。 相手がお話好きの方だと、なぜかゴルフや最近行ってよかった温泉の話が始まってしまう。 サトダさんは、それを見つけるとさっさと電話を代わってくれる。 今日も昼休みにオフィスに戻ってくるなり、まだ電話対応している私を見つけた。 その辺にあったメモ紙をつかむと「誰?」と書きなぐってペンを寄せてきた。 「えぇ、そうですね」 相槌を打ちながら、「野田企画、川内専務」と書くと、「俺が話したいって言って」と書きなぐって自分の席をジェスチャーする。 「あ、すみません。今、佐藤が戻りまして、川内専務とお話ししたいそうなんですが、よろしいですか?」 サトダさんが自分のデスクについて、軽く手をあげるので、内線で回した。 「あぁ、川内専務。お久しぶりです。えー、すみません。この間の……」 そういう具合に、いつも大体の長話をうまくカットする。 「じゃ、そういうことで。よろしくお願いします」 さっさと電話を切って、そのまま仕事を始めるので、いつも、すみません、しか言えない。 お礼を言っても、あっさりしている。 「あ? いいよ、丁度良かったです。二ノ宮さん、お昼、行って下さい」 今日も、それだけ。 くみちゃん事件以来、ずっとこの人に助けられている。
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