宵のエルマー

二ノ宮さん

杉浦さんが聞きに来た時、そのファイルは一見デスクの上には見当たらなくって、私が東京のサトダさんに電話して聞くことになった。

「お忙しいところ、すみません。杉浦さんが、昨日預かる予定だったファイル、どちらに保管されていますか？」

そうサトダさんに電話をすると、
「ああー。あいつ、昨日くれば、直接渡したのに。俺がいないときに来るんじゃねぇって、言っておいてください」
と言われた。

そんなこと、私が杉浦さんに言えるわけがない。

「あの。ファイル、どこでしょう？」
と、改めて聞きなおした。

「あ、えっと、デスクの上になかったら、多分、引き出しです。右上のです」

言われた通り、引き出しを開けたら、いくつかほかのファイルと一緒になって、ちゃんと保管されていた。

「ありました！ありがとうございます」

お礼を言うと、
「はい、よろしくお願いします。」
と返事があった。

「あ、杉浦とか、俺のいない時に、変なこと言ってくるやつ、無視でいいですから」
電話の向こうでサトダさんが笑う。

「それは、大丈夫です。お手数おかけしました。ありがとうございました」

無視なんか出来るわけないのに、冗談をいうサトダさんに、あの時は、そう言って電話を切って、慌てて待っている杉浦さんにファイルを渡した。