美和さん

2/7
前へ
/208ページ
次へ
 急に専務が入院されて、なぜかサトダさんと私がお見舞いに行かされることになった。 普段、サトダさんは忙しいから、ぜったいこんな役は回ってこないのに、専務に気に入られているから、ご指名だそうだ。役員と仲が良いというのは本当らしい。 私は、ただアシスタントとしてついていくだけ。 課長から 「これで入院見舞い、ちょっと買ってきて」 と渡された一万円を入れたお財布を握って、午前中に私がお土産にする果物とお菓子を買いに行った。 会社から一緒にタクシーで、市内の県立総合病院へ出向く。 タクシーの中で二人になっても、サトダさんは、エルマーのことは口に出さない。 会社の同僚の話を、適当にしゃべっている。 「あ、二ノ宮さん、盛田さんが仔猫飼ったって、聞きました?」 「はい。すごく可愛いって。さっき、写真見せてもらいました。ぬいぐるみみたいな可愛さでした」 小さいペルシャ猫で、本当に嘘みたいに可愛かった。 「仔猫がお家でお留守番してるのが心配で、仕事にならないって言ってましたよ」 「ハハハ。盛田さん、今日中の仕事あるのに、大丈夫かな」 「明日の会議のですよね?」 「そうです。森本が自分でやればいいんですどね」 サトダさんが窓の外を見て、笑っている。 私たちは可笑しいことをしているという自覚はサトダさんにあるのだろうか。 会社の話より、話すことがある気がする。 それが、口に出せない。 狭いタクシーの中では、二人でいるのが、私には、すこし息苦しい。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1753人が本棚に入れています
本棚に追加