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専務と奥さんに挨拶して、病室を出る。
「じゃ、帰りましょうか。」
病院のロビーを出ようと、自動ドアを出て、サトダさんが一瞬、立ち止まった。
見上げるとサトダさんの視線の先にはセミロングのまっすぐな髪を風になびかせて、今にもタクシーに乗ろうとしているきれいな人がいた。
「美和!」
こっちがびっくりするくらいの声で、ためらいもせず、その人を呼び止める。
横を見上げると、そのまま、まっすぐその人を見つめたまま、その人に駆け寄った。
私はその場から動けなかった。
美和と呼ばれたその人は、名前を呼ばれて振り向いて、驚いたようだったけれど、サトダさんを見て微笑んだ。
三十代前半、半ばだろうか?
笑った感じが、大人の女性らしくきれいだ。
少し会話をしている。
ちょっと困ったように、首をかしげて、サトダさんに返事をしているようだった。
タクシーの運転手が困ったようで、その人は、慌ててなにかサトダさんに言うと、タクシーに乗って行ってしまった。
ぐっと胃を掴まれたように痛い。
胸の奥が苦しい。
息が出来ない。
サトダさんが振り返える前に、動かないといけない。ロビーに立ち止まってしまっている私に気が付く前に。
ぎゅっと拳を握って、足を一、二と、無理やり動かして、平然を装って、サトダさんのそばまで行く。
「並びましょうか」
タクシーの列の最後尾を指さした。
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