美和さん

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 この間見た「美和」さんが、サトダさんの心の中にいるのなら、納得だと思う。 美和さんは、指輪をしてたように思う。 あの時、少し距離があって、確証はないけれど、多分、薬指だった。 それならサトダさんに、結婚願望がないのも納得できる。 社内恋愛をさけて、あとくされのない女の子と遊ぶ。 だけど、夜な夜な私の読む児童書を聞いている。 何なんだろうか。 私は毎週、夜中に電話を待っている。 一言ずつ言葉を紡いで、あの人の吐息に耳を澄ませている。 そして、翌日には、何でもないような顔で一緒に仕事をする。 わけのわからない秘密を持って、お互いの心の深いところに居るような気がしていた。 私の勝手な思い違いなのかもしれない。 サトダさんは確実に私の心に夜行性の獣のように居座っている。 だけど、サトダさんにとって、私は何なのか。 美和と呼ばれたあの人がサトダさんの心の中にいるんだろう。 これは一体何なのか。 混沌の中にいるのに、これが何なのか聞いてしまったら、終わってしまうのではないかと思う。 それが怖くて、何も聞けない。
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