百合ちゃん

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普通、考えたらおかしいと思う。 夜な夜な上司に児童書を読んで聞かせるなんて。 私は少しでもサトダさんの特別になりたくて、変な事を始めてしまった。 「はあぁ? どういう事?」 詰め寄る百合ちゃんに、サトダさんがとても忙しい人で、私の声で寝れそうだって言うから朗読していると、手短に説明した。 「それ、会社でも皆、知ってるの?」 百合ちゃんが怪訝な顔で聞いてくる。 「うんん。誰も知らない。今、初めて言いました」 「電話で変な事、言われてない?」 眉間にシワを寄せている。 一応、上司だから、セクハラ系の心配をされたらしい。 「ない。全然ない。私が朗読するのを静かに聞いてるだけよ。おしゃべりするにしても、本当、一言、二言、本から思いついた事を言うだけ」 「その人、何を考えているんだろう?」 百合ちゃんが腕を組んで、首をかしげている。 サトダさんの考えている事なんか、私には分からない。 本当に、ただ私の朗読を聞いて、寝てしまうか、適当な話をちょっとするだけだ。
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