百合ちゃん

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帰り際、百合ちゃんは私に 「世の中、みんな、色々あるからさぁ。杏も自由にしていいと思うよ。……何かあったら、聞くしね」 と、手を振って帰っていった。 世の中、みんな、色々ある。 本当に。 百合ちゃんの一言が響くのは、彼女だって何かあるのを、私が知っているからだと思う。 彼女の母親は、今は落ち着いているけどアルコール依存症で、百合ちゃんが中学生の頃、かなりひどい状態だったらしい。 私と同じテニス部だったけど、彼女はお母さんの状態に合わせて、部活を休みがちになった。百合ちゃんが買い物したり、家事を結構こなしていた。酩酊して、吐いて倒れているのを百合ちゃんが見つけて、救急車を呼んで、病院へ運ばれたこともある。 大学に行って、一人暮らしになってからは、親とは適度な距離を取っていると言ってた。 「家族である為に、距離が必要な事もあるよ」 悠ちゃんが施設で暮らすことになった時、百合ちゃんが言った。あの時の言葉に私は少し、救われた。 そして、百合ちゃんはお酒を一切飲まない。 怖いんだそうだ。 「あの人みたいになるのが」 結構、みんな何かしら、心に抱えている。 それにしても『杏も自由に』って。 自由にって、世間一般から見たら変なこの関係を自由に続けたら良いということなのか、自分を自由にして、好きなら向かっていけ、と言う事なのか。 両方? なんだか深いメッセージを貰ったようで、考えながら、家路についた。
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