杏ちゃん

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 社内の異動で、うちのチームの香川さんが営業に異動になるので、お別れ会で飲み会をする事になった。 サトダさんが聞いてくれたので、参加することにした。 「二ノ宮さんも行きます?」 「サトダさんが行かれるなら」 そう言ってしまって、ちょっと迷惑だったかな?とも思ったけど、正直な気持ちだからしょうがない。 乾杯のビールから、もう顔が赤いので、お水と酎ハイを交互に飲んでいる。 ジャケットを脱いで、シャツの袖を少し捲ったサトダさんが隣に座っている。 オフィスでは、デスクが向かいなので、少し新鮮だ。サトダさん側の身体半分が緊張で少し暑い気がする。 向かいに座った吉田君が受付の女の子の連絡先を聞き出したと喜んでいる。 「本気で? え、どの子? 良かったな」 サトダさんが、そう言って笑っているけど、合わせているだけで、羨ましいなんて、ちっとも思っていないんだろう。 吉田君がこっちを向くと、 「二ノ宮さんは、彼氏いるんですか?」 と振ってきた。 「いえ、残念ながら」 首を振って、笑って答える。 吉田君は半年前にこの部署に来たから、くみちゃん事件を知らない。 森本さんが横で微妙な表情で窺っている。 心配しなくても、これくらいのプライベートなら、いつでも話すのに。 「お前は受付の子でいいだろ? 二ノ宮さんにはちょっかい出すなよ」 サトダさんが隣から、言ってくれた。 そのうち、店員さんが来ると、サトダさんがさっと、 「あ、お水、下さい」 と店員さんに頼むと、何にも言わず私にくれた。 他の人の注文もまとめて取っている。 面倒見が良い。 私が特別ではない。
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