1753人が本棚に入れています
本棚に追加
10時半に電話が鳴る。
「こんばんは」
6時間前に会社の電話で、業務連絡した時とは少しだけ、サトダさんの声色が違う。
もう飲んだ後なのかもしれない。
今日は海外支社の偉い人が日本に来ている相手をしていたはずだ。会食で1時、2時と夜中まで引っ張り出されている時もあるから、早い方だと思う。そういう遅い時には、電話はこない。
「こんばんは。読みますか?」
私が切り出すと珍しく、
「もうすぐカナリア島でちゃうなぁ」
とお話の話を先にした。
「なぁ、今日は、他の話して」
「え? エルマー以外ですか?」
「うん。適当で良いよ。本じゃなくても、覚えているやつで。お話してくれたら、いい」
「そうですか」
実家から持ってきている児童書はエルマーのシリーズだけだ。
私と悠ちゃんが子供の時、たくさん読んだお話で、覚えている昔話を思い出す。
「じゃ、昔話ですよ」
なんだか昔話を思い出しながらするのは、気恥ずかしい。
「ある所に3匹のヤギがいました……
向こうの牧草はみずみずしく、とても美味しそう……
橋の下からトロルが出てきて、お前は誰だ?と聞きました……」
橋の下に住むトロルがヤギを食べようとするけれど、ヤギの兄弟に上手く誤魔化されてしまう、という話。
思い出しながら、静かにお話をしていくのだけど、朗読とはやはり、違ってしまう。本の章を読むのより、随分短く省略されてしまった気がする。
「オシマイ」
眠れたかしら?と思ったら、やはりサトダさんは起きていた。
「その話、なんだっけ?」
「え? 橋の下のトロルの話です」
「ヤギの話じゃなくって?」
「さぁ。タイトルは忘れてしまいました」
最初のコメントを投稿しよう!