杏ちゃん

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まだ少ししかお話していない。 「もう一つ、しますね」 電話を切りたくなくて、続けた。 ぱっと思い出せる、良いお話がない。 オレンジのトラの絵本が思い浮かんで、それを思い出す。 内容は女の子の家にトラがきて、お茶を飲んでいく話だったのだけど、手元に本があるわけでもなく、詳細が思い出せない。 ただ、トラの絵が、サトダさんを思い出させた。 「ある所に女の子がいました」 適当に言葉を繋いでいく。途中から、勝手なストーリーを作り上げる。 「女の子は一人で、おままごとをするのが大好き。 ある日一人で遊んでいると、誰かがドアをノックしました。 ドアを開けて、びっくり。そこには大きなトラがいたのです。 こんにちは。トラさん。女の子はトラに言いました。 トラはこんにちは、と、女の子のお家に入ってきます。トラはとても大きくて、女の子の部屋はトラでいっぱいになってしまいます。 女の子はトラさんにお茶を一杯いかがですか? と言いました。 トラは女の子の出すお茶とケーキを美味しそうに食べました。 そして、にっこり笑うと、ぐるりと部屋を一周して、玄関から出ていきました。女の子はびっくりしたけれど、楽しい気持ちでいっぱいでした。 次の日の午後、トラがまたやって、女の子はお茶とケーキを出しました。 次の日も、その次の日も女の子はトラと一緒にお茶とケーキを食べました」
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