杏ちゃん

11/29
前へ
/208ページ
次へ
 その週もサトダさんにエルマーを読んだ。 カナリアの王様の宝箱が開けられる。 スプーンやカップが入っている。それがカナリア達のお宝だった。 お話の後も、サトダさんは寝てなくて、「なぁ。こないだみたいに別の話も聞かせてよ」 と言う。 「作り話で良いですか?」 「いいよ」 じゃあ、あなたに聞いて欲しい話を一つ。 「ある所に女の子が住んでいました。 その子は大きな箱を持っています。 その箱の奥には素敵な魔法や宝物が入っています。でも一緒に、壊れたおもちゃや、破られた本や、大暴れする怪獣も入っているので、女の子はその箱をこっそり隠しています。 お友達が来ても、その子はその大きな箱を隠しているので、一緒に遊べません。 ある時、その女の子は、一人の男の子に会いました。 女の子には、その子が同じように、なにか大きな箱を隠しているような気がするのです。 女の子はその子とお友達になりたいと思いました。その子となら、一緒に遊べる気がしたのです。 仲良く遊んでいるうちに、その男の子の箱になにが入っているのか、知りたくて、たまらなくなるのです。その男の子に、自分が箱を持っていることすら隠しているのに」 「……サトダさん」 まだ聞いているのかもわからないサトダさんに問いかける。 「お話のつもりが、クイズでした 」 静かに問いかける。 まだ何の返事もない。 「この男の子の持っている宝箱、何が入っているんでしょうか?」 寝てしまったのなら、それでいい。 寝たふりをするなら、それでもいい。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1753人が本棚に入れています
本棚に追加