杏ちゃん

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「……空じゃねえ?」 とポツリとサトダさんが言った。 カラ? 「男の子は、箱、もってないんだと思います?」 「いや。空なだけ。捨ててもいい箱、ずっと持っていたんだろ」 抱えていたものは、中身のない箱?  自分で始めた変なクイズの答えに、私が困ってしまう。 「杏ちゃん、明日の夜、空いてる? 俺、午後には戻るから」 私が理解しかねていると、いきなり言われた。 「え、はい」 金曜の夜に別に用事なんかない。 「その女の子が何の箱、持っているか、気になるわ。直接聞かせて」 なんといっていいのかわからない。 説明する自信もなくて逃げた。 「ただのお話ですよ」 と誤魔化した。 「知ってる。それでいいよ」 柔らかくサトダさんが笑った。
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