杏ちゃん

16/29
前へ
/208ページ
次へ
「お、あぶねぇ」 見上げたら、サトダさんが携帯片手に立っていた。 「大丈夫?」 「はい。すみません。考えごとしてました」 もらった書類を隠すように抱きしめた。 隠したって、この人は異動の話を聞いている。 「何?……あぁ、あとで聞く。定時で行ける?」 「はい。大丈夫です」 そう答えると、サトダさんが笑った。 「じゃ、俺、張り切って終わらせるわ」 定時まであと三十分。まだまだ仕事があるらしい。 階段を下がって行ってしまった。 はっと気がつけば、今、会社ですこし砕けた話し方をしてくれた。 今日は個人的な話をするので、良いのだろうか。 あの人は、私の異動はどう思っているのだろう。 ぜんぜん読めない。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1752人が本棚に入れています
本棚に追加