杏ちゃん

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サトダさんが顔を上げて、私を見た。 そんなバカなこと、私が言ったからびっくりしたんだと思う。 会社の命令で地方にでも、海外にでも、さっと出かけて行く人だ。 「俺は、それでいいと思っている」 視線を外すと、そう静かに言われた。 「そうですか。じゃ、ありがたくお受けしようと思います」 「やってみて、どうしても違うと思ったら、上原に言えばいいから。あいつなら何とかしてくれる」 「ありがとうございます」 軽く頭を下げて、上司にお礼を言った。 そのまま、それ以上、この異動の話も、始めに聞きたいと言われていた「お話」の真相も話さずに、会計を済ませた。 やっぱり会社の同僚という枠から抜け出せない。 それも、一緒に働いていても、一緒に働いてなくても、どっちでもいい類のものだったらしい。 夜中の電話はお互いに、別人格のようだとおもう。
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