杏ちゃん

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渦巻の迷路を遠くから、徐々に真ん中に向かって手を引いていく。 いつでも逃げられるように、帰り道を覚えておく。 そのつもりの例え話だったのに、この人は真ん中へ私とジャンプした。 もう帰り道がわからない。 「なんで?」 サトダさんに言われて、うろたえる。 ただ惹かれたんだもの、仕方がない。 全く正反対なのに、何処か同じような匂いがしたんだと思う。 サトダさんが何かを抱えていて、ちゃんとしたお付き合いをしないのさえ、始めは都合が良いように思えた。 ただ、そのサトダさんが抱えるその何かが、きっとあの女性なんだろうと気が付いてからは、どうしようもなく苦しいのだけど。 あの人のことが気になって、逆に聞いてみる。 「サトダさん。箱、空っぽだったんですか?」 「あー、箱って言い方されたら、そういう感じ」 椅子に深く沈み込むと、少し首をかしげて考えている。 「美和さん」 私がその名前を呟いたら、びっくりしたようにこっちを見た。 「だって、あんな大声で名前を呼んだら、誰だって覚えます」 私がそう言うと、 「あ、そうか」 と、お見舞いに行った時のことを、思い出したようだった。
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