杏ちゃん

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「俺さ、その時、焦って、その妊娠は?って聞いたんだ。そしたら、どうにもなってないよ、大丈夫、って」 やるせないように笑って、ぐっとハイボールを飲んだ。 「俺、単純だから。美和が幸せに暮らしてたら、それでよかったんだけど。この話を聞いた時さ、もう結婚2年以上過ぎてて、美和、まだ子供がいなくって。……田舎で、近所だし、そういうの、親が話すんだよね」 確かに誰が子供がいる、とか、まだいないとか、田舎ではありがちな世間話だ。 「3年、4年ってなって、まだ美和、子供がいなくって。もう今、8年くらいかな。……俺が勝手にインドネシア行ったせいで中絶したんだと思ってたから。なんかさぁ、旦那との子供が出来て、幸せになってくんないと、落ち着かないわけ。……なんかあったら、責任取るつもりだった」 言葉の重さに、喉が閉まる。 苦しくって、なんて言っていいのかわからない。 「俺の家族なんか、こんな事情、知らないんだけど、なんとなく俺が美和が出戻ってくるのを虎視眈々と狙ってるみたいだって、笑っているよ」 グラスを見つめて、ハハっと笑った。 やるせない。 もしサトダさんとの妊娠、中絶が不妊の一要因だとしても、サトダさんが一生待ち続ける必要はあるのだろうか。 子供がいなくても、幸せなカップルも山ほどいる。 「でさ、あの後。病院で偶然会った後、電話して、美和と会って、ちゃんと話した」 え? 「エルマー、頑張ってたしな」 エルマーの名前がでて、びっくりする。 童話を聞きながら、そんなことを考えていたのか?
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