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「エルマーですか?」
「あー、そう。竜を自由にする話じゃん」
そうだけど。
子竜のように、自由になったのだろうか、サトダさん。
「美和にさ、俺にどうこうしてほしいなんて思ってないってはっきり言われた」
グラスを置いて、前を見ている。
「そりゃそうだけどさ、責任を感じるって言ったらさ、勘違いだって。あの時も自然に、駄目だったんだって。多分、体質なんだって。それで、こないだの病院も婦人科」
サトダさんが泣くかと思った。
すこし声が重い。
「ま、どっちにしろ、その時、俺はそばにいなかったわけ。大変なときに、そばにいなかった、自分の事ばっかり優先している俺より、ちゃんと一緒にいてくれる今の旦那さんが良かったんだって。今も妊活してるし、もし子供ができなくても、きっと幸せだって。もういいって」
そう言い切ると、少しこっちを向いた。
「俺、ばかだろ?」
自嘲気味に笑った。
「知らなかったんだから、仕方がないですよ」
私に何が言えるわけでもないけれど、それでも声をかけた。
インドネシアで何にも知らずにお仕事していたんだから、仕方がない。
サトダさんが、
「知ろうとしてなかったから」
と悲しく笑った。
「空の箱抱えてた」
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