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「俺はかなりバカだな」
静かに笑った。
「え?なんですか?」
サトダさんの何がバカなんだろう。
「杏ちゃんの箱、ぜったい男が関わっていると思ってた」
「悠ちゃんは、男ですけど。一応」
急に面白いことを言うので、クスクス笑いが隠せない。
「あ、でも、それもありますよ。兄の事、あんまり言わないようにしてたので、結局、どんな人ともうまくいかないでしょう?なにか大事なこと、言わないでいると」
と私が付け足す。
「そうだな、それは」
サトダさんが納得したというようにうなずいた。
「だから、ちゃんとしたお付き合いが普通にできないなら、素敵だなと思う人とただ楽しく出来たらいいんじゃないかと思っていました」
これだけ正直に言ったら、これがさっきの答えだと分かってくれるだろうか。
サトダさんに魅かれている。
そういうことだと分かってくれるだろうか。
サトダさんが、グラスを持って、ふうっとアームチェアに寄りかかる。
薄暗いバーの中で、この人は座っていても目立つ。
単にイケメンだとかそういうのとはちょっと違う、イイ男だ。
顔立ちも整っているけれど、それ以上になにかかもち出している力や色気を感じる。
それに惹きつけられている。
「なぁ、杏ちゃん?」
名前を呼ばれて、サトダさんと目が合う。
深く、熱い。
「俺に夜中に朗読してんの、楽しい?」
うっすら口元が笑っている。
私が楽しいかどうかなんて関係あるのだろうか。
「ええ。楽しいです。好きですよ」
私が答えると、サトダさんがふんわり笑った。
「それなら良かった。もうちょっと、続けていい?」
「はい。3巻がありますから」
「ん」
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