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三木さん
翌週、人事に異動の打診を受けさせて頂くと返事をした。
さっそく上原さんに呼び出されて、引き継ぎの事項なんかを確認された。
「良かったです。二ノ宮さんが受けてくれて」
上原さんが私を見て、微笑んだ。
「サトダが強く勧めるから、専務がもう、かなり乗り気で。断られたら、どうしようかと思いました」
え?
サトダさん、会社からの異動命令だから、賛成したんじゃないのか。
彼から勧めた?
「そうですか」
上原さんにはさり気なく返事をしたけれど、心が深く沈んでいった。
仕事の適性を見て、ということなのかも知れない。二人で話をした時も、合っているだろうと言ってくれた。
でも単に、もう側に置きたくないのだとしたら?
色々と詮索をして、夜中に電話するという変な関係になって、もう距離を置きたいのかもしれない。
「私の後任、誰になりそうですか? 引き継ぎがありますから」
「多分、三木さんですね。まだ一年目ですけど、総合職だし、彼女は今年、サトダのサポートしながら仕事を覚えてもらうことになるかと思います」
あの子か。
サトダさんの隣に立っても華やかさのある子だ。
心がチクリとした。
「分かりました。いいペアになりそうですね」
声が引きつる。
普通にしようとして、逆に言わなくてもいい事を言ってしまった。
上原さんは少し驚いたという顔をした。
「サトダ、そこは、しっかりしてるんで」
軽く笑いながら言われた。
何を言ってしまったのか。
仕事面でのペアだと言ったつもりが、本心を見抜かれたようで、恥ずかしかった。
「はい、お仕事の話です」
どうしようもない言い訳をして取り繕った。
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