三木さん

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海外事業部に戻って、部長と課長に上原さんとの面談について口頭で報告した。 「そう。受けることにしたんだ。いいんじゃないかと思うよ」 佐藤部長はもう知っている話だ。部長が最終のオッケーを出しているんだろうから。 「はい」 「こっちは寂しくなるけど」 佐藤部長でさえ、寂しいと言ってくれるのに、サトダさんは寂しがらない。 「正式な書類は人事が今月末に出すそうです。秘書課で2週の引き継ぎが欲しいそうなので、異動は来月中旬だろうとのことですけど、こちらはそれで良いですか?」 「じゃ、正式決定の後から、引き継ぎで、お願いします。引き継ぐの決めておくから」 三木さんで決まっているらしいのに、そこはまだ言ってくれないらしい。 席に戻って、オフィスを見渡すと、三木さんはパソコンに向かっていた。顔をあげると、指導係の盛田さんに話かけている。 三木さんは、新入社員でまだ分からない所が多いから、私が中途採用で始めた時以上に、サトダさんのお世話になるだろう。サトダさんは、優しいから、丁寧に教えるんだろう。 ばかみたいな嫉妬をしている。 そんな事を考え込んでいていきなり、すみません、と声をかけられて振り返ると吉田さんがファイルを持って立っていた。 「はい?」 「これ、ちょっと分かります? この数字の内訳、知りたいんですけど」 吉田さんがサトダさんと関わっているプロジェクトに、私が用意した資料だった。 「どれですか?」 近寄って、ファイルをちょっと見せてもらう。 「この去年度の上半期のとこです」 気になっている数値を指さして教えてくれた。 「あ、はい。詳細は元のファイルにあるので、送ります」 「じゃ、今日中ならいつでもいいんで、メール下さ……痛ったぁ!」 吉田くんが最後まで言う前に、後ろから頭をファイルで、軽くバコッと叩かれている。 サトダさんがいつの間にか帰ってきていて、吉田さんを小突いたらしい。 「吉田、サトケンが呼んでた。さっさと行けよ」 サトダさんだと気がついて、大げさに 「痛え。酷い。俺は何にもしてねぇ」 と文句を言っている。 何にもしてないと思われているから叩かれているのに、可笑しい。 「行けよ」 再度サトダさんに言われて、出ていった。 「後で送りますから!」 吉田さんの後ろ姿に声をかけた。
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