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上原さんと話してから、サトダさんに聞きたい事を聞けないでいる。
どうして、私の異動をサトダさんから勧めたのか。
今もサトダさんが出張の夜には、エルマーの続きを読んでいる。
最近は東京じゃなくて、大阪と広島への出張があって、両方とも電話があった。
相変わらず、電話の時は私を杏ちゃんと呼び、タメ口で優しく話をする。
と言っても、私がお話を読んで、その後少し会話を交わすだけだけど。
携帯を片手に、マンションの窓のカーテンを少しずらして覗くと、夕方からの小雨が雨脚を強めて降っている。
「こっち、雨ですよ」
「あ、そう? こっちは、曇」
広島は、もうこの時期、あたたかいだろうか。
雨が当たって冷たい窓ガラスに寄りかかった。
「サトダさん」
「ん?」
エルマーはもうすぐ全部終わってしまう。
会社でも、もう少ししたら、会えなくなる。
寂しくないのか。
聞きたいのに聞けない。
夜の電話では、サトダさんは会社の話は一切しない。
私もしてはいけないような気がしている。
「何でもないです。おやすみなさい」
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