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あぁ、わかった。
と思ったら、泣きそうになった。
「異動の話、サトダさんが勧めたって、聞きました」
「え? ん、あ、上原から聞いた?」
「どうしてだろうと、ずっと思ってましたけど、分かりました」
そこまで口にしたら、涙が一つ、落ちてしまった。
タクシーの中で前を向いて話しているサトダさんに、気づかれないように、少し斜め左を見る。
「え、分かった? 何、上原に言われた?」
そこまで言って、こっちに顔を向けたようだった。
「えっ、杏ちゃん」
びっくりしている声だ。
情けない。
仕事のタクシーで泣くなんて。
丁度、会社の前にタクシーが止まった。
サトダさんには、なんにも言えずに、
「すみません。領収書お願いします」
と、会計をすまして、おつりと領収書をつかんだ。
「すみません、先に戻ります」
びっくりしているサトダさんにそれだけ言って、慌ててエレベーターに向かった。
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