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会議室の椅子を勧めると、サトダさんが椅子を引いて、体をこっちに向けて、横向きに隣に座った。
「どうした?」
優しく聞いてくれる。
「力不足なんて、思ってない。ミスだって、珍しいだろ?」
じっと目を見て話してくれる。
「……じゃあ、なんで私を異動に出したんですか?」
ここずっと、喉にひっかかっていた、聞けなかったことを聞いた。
一瞬間をおいて、サトダさんが優しく口を開く。
「杏ちゃん、異動、嫌だった?」
「いいえ。異動はいいんです。秘書課に行くのはいいんです」
中途採用の一般事務が専務の秘書なんて、名誉なことだと思う。
だけど、サトダさんが、私を自分から手放したのが嫌なのだ。
夜な夜な電話でひっそりお話を読む。
心の奥底もさらけ出した。
だけど、実際、目に見えるつながりは、会社の上司と部下でしかない。
それをなくしてしまって、平気なのか。
私は、サトダさんが私と離れるのが平気だという事が嫌なのだ。
「サトダさん、私と離れて平気ですか?」
口に出してから、自分があんまりに会議室に不似合いなことを言ってしまったと気が付いて、出た言葉を取り返したくなった。
逃げたい。
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