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「メリーちゃんの将来の夢って何かしら?」
「あい?」
いつものようにママにおはようの挨拶をして、いただきますしてご飯を食べて、ごちそうさまと諸々お出かけの準備などして。
いつものように行ってきますと言おうと思っていたら、不意にママから質問が飛んできた。
そりゃ驚くよ。
付かず離さず。必要以上に会話しないことを普通の子供なら寂しいと感じるだろうけど、私はこのくらいで丁度良かった。
この私がよ?あれも出来ないこれも出来ない手伝ってと甘えられるわけもないじゃない。
「わたしの、ゆめ?」
「うん。良かったら教えてくれる?」
「うーん」
唐突にそんなこと聞かれても。この年頃の子供達はどんなことを夢見ているんだろう?
王子様お姫様とか?騎士とかお店関係とかはあるかしらね。ドラゴンになるとか思いも寄らない発想をしてたりして。
だけどまあ、今の私が思うのはそういった憧れの対象になるようなものはむしろ遠慮願いたいくらい。
「とにかく自由に。自由がいちばん」
お金や権力、名声といったものに囚われたくないの。
私が私らしくいられること。その思いを曲げてまで頑張ろうという気はさらさらないわ。
……と、考えていたら前世のような引きこもりになってしまうのよね。
「メリーちゃんらしいわね」
「ほぇ?」
「偉いわ、あなたは。こんなに幼いのに、すごくしっかりしている」
「そぉ?」
「だけどね、覚えておいて。自分らしく生きることはとても立派で、とても大変なこと。ほとんどの人は自分を偽って生きているんだから」
「……ママ?」
「大人は皆嘘つき。強がりで欲張りで我儘なのよ、大きくなっても皆子供と一緒」
そうだね、まず5歳児相手に話すようなことじゃないもんね。
ただママの本当の願いは何なのか。私にどうあってほしいのかは分からないまま。
そう、大切にしたいと思いながら近づこうともしなかったのは他でもない私自身だ。
「メリーちゃん。メリーちゃんはママのことが好き?」
「ふぇ」
「ううん、いいの。メリーちゃんに甘えてもらえるようにしてこなかったママが悪いから。大好きなのに、ちゃんと向き合う時間を作ろうとしなかったから」
別にいいのに。
おはようと笑って行ってらっしゃいと見送ってくれて、おかえりと迎えてくれて、あたたかいご飯とお風呂、そしておやすみと撫でてくれる。
十分。十分私は大切にしてもらっていると感じていたよ。
「ママのこと、好きだよ。いつもおうちにママがいるの、うれしいよ」
「メリーちゃん」
「ママ、きいてくれる?わたしね、おーじさまにあったの。かおはまあまあ良いけど、ざんねんな人たちでね」
「──ふふっ」
知ってもらおうとしたことなんてなかった。話を聞いて、なんて言うのが恥ずかしかったみたい。
ママ以外の誰がこんな子供の話を真剣に聞いてくれるんだっていうね。
行ってきますは今日はしない。
ママのあたたかい腕の中に包まれて、たくさんの笑い声と共にのんびりと過ごすんだ。
「ママ、あのね。わたし、がっこうに行ってみたい」
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