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「そういうことならもう隠す意味もないかしらね」
「ほぇ?」
ママの膝に乗って甘えていると急に意味深なことを言い出した。
あーあ。なんだか少し名残惜しいな。
こんな風に誰かに自分の身を預けるなんてもう記憶にないし、思っていたよりもずっと心地良かったんだもの。
「メリーちゃん?」
「ううん。ママのほうこそ、なぁに?」
「ふふ。メリーちゃんも大きくなったから大人なお話をしようと思ったの」
「おとなな?」
全然まだまだちっこくってさ、本当に早く大きくなりたい。
ただし中身は違いますよ?お察しの通り、大人な話をしようじゃありませんか。
チリンチリーン。
どこから取り出したのかベルを鳴らすママ。
ベル一つで使用人がいつでも飛んで来る。そういうの、憧れていた時期が私にもありました。
身の回りの世話も全部してもらってさ、悠々自適に過ごすの。
そう、一時期だけ召使いなんてものを置いていたこともあったの。
だけどね、必要以上に気を回してくる上に、何をやらせても自分のほうが上手くやれたから、鬱陶しくて仕方なくなってしまった。
神様の如く崇拝してきたあの子だって私のパーソナルスペースには細心の注意を払っていたものね。
「お呼びでしょうか、奥様」
「ええ。ケルソン、今日は私じゃなくてね。この私の可愛い娘よ」
「畏まりました」
それはそれ、これはこれ。そんなに難しく考える必要はないよね。
この体は何かと不便だから、後のことはよろしくしちゃえばいいの。
厳かな雰囲気で、とても献身的な中年男性だった。
ソファーから足も着かない小さな私の前に跪いてみせる。
子供らしく満面の笑みで応えてみた。
「わたしはメリーティアよ。よろしくね」
「メリーティアお嬢様。身の回りのことなど何なりと私にお申し付けください」
「んっ」
よろしい。お嬢様というのはくすぐったいけど、大きくなるまでは甘えさせてもらおうじゃない。
そういえば、メイドなるものは?可愛い娘にはより一層可愛く仕立て上げる側女が必要よ?
「アスナはどうしているの?」
「お嬢様のお側に立てると聞き大急ぎで買い出しに出かけてしまいました。すみません」
「そう。あの子らしいわね」
ふむふむ。嫌いじゃないよ、そういうの。
私だって女の子だもの。皆には可愛いと言われたいし、いつまでも美しくいたい。
着せ替え人形になるのは勘弁願いたいけれど、まあそれも避けられないんだろうなぁ。
「ママ?」
「ごめんね、メリーちゃん。アスナっていう子は頑張り屋さんで良い子なんだけどね、ちょっと突っ走りやすい子なのよ」
「アスナちゃん?」
「フフッ。そう、アスナちゃん。面倒見てあげてね」
「はーい」
大きな妹みたいなものかな。家族には縁がなかったからさ、たくさん可愛がってあげよう。
「他にもシェフとか清掃員とか色々いるのよ?」
ふぇー。そんなに、私全然気付いてなかったんですけど。
ダメだなぁ。お家だからって気を緩めすぎてたよ。
「それで私はこの家の主、の奥様。パパは忙しくて全然帰ってきてないけれど、とても偉くて強いのよ?」
「ふーん」
「あら?パパのことは興味なし?」
「あ、うん」
なんだ、普通にお父さん生きてるんじゃん。ってそれだけ。
会わなければ家族って言っても血が繋がってるだけでそれ以外に何もない。
「ん。お父さんってどこの人?」
「え?えっと、ドラゴンの住む国よ」
「ぷぇ」
軽くむせた。
こんな幼い子供がいるのに全然顔を見せない理由がまさかそれだなんて。
いや別に人外だとか思っているわけじゃないよ?ドラゴンと言えばリクがそうだったし。
ただまあ、私にはやっぱり相応の血が流れているものだと思ってしまっただけ。
「そーすると、ママは?」
「ママのこと?ママはね、実はエルフなのよ」
「あ、はい」
「えー? メリーちゃん、そこはもう少し驚いてほしいな」
「ぷぇ」
いやだってね、何となくそんな気はしてたもの。
そんな気はしてたけど、認めたくなかっただけ。
前世の自分とほとんど変わらないじゃない。足して割った分弱くなる、なんてことはないわよね?
人間の王子になったレイを羨ましくおも──いはしなかった。うん。
権力なんていらないし。権力を覆せるだけの力を受け継いでいることは何より都合が良いじゃないの。
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