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「全く、退屈すぎて死んじゃいそう」
「ふぇ!?だ、ダメだよメリーちゃん、しなないで!」
「ふふっ。冗談よ。サフィーは可愛いんだから」
「あぅぅ」
過ごす時間の経過と共にサフィーはすっかり可愛い妹分になっていた。
自重しない私。無垢な目でただただ感動し、私にひっついてくるようになったサフィー。
もちろん他所様には見られないよう二人きりの時だけに気を付けているけれど、王女とはいえまだまだ子供のサフィー。
近しい者には私達の関係性がバレバレで、毎回会うたびに咎めるような視線を頂戴してしまうのだった。
まあ、視線だけならね。
本気で邪魔をするのなら容赦はしないけど。
「でも退屈しているのは本当。ねぇサフィー。二人きりでお出かけしない?」
「お出かけ?うん、行こう行こう!それじゃあわたし、シエラにほーこくしてくるね!」
「お待ちなさいな、お転婆娘」
「ふぇっ?」
初めてのお使いじゃないからね、8歳児。
王女様という肩書にふんぞり返るような素振りは一切なくなったのは良いことだけど、同時に甘えん坊なところが目立つようになったのよね。
良いんだよ、私にだけはいくらでも甘えてくれて。
ただ将来を思う彼らにとっては非常に厄介な悩みの種となっているのだろうな。
「二人きり、と言ったよね?」
「うん。だからわたし、メリーちゃんと一緒にお出かけしてくるの、って言おうと」
「……そうだね。サフィーならそう言うよね」
護衛が誰一人ついてこないお出かけなんて幼い王女様ができるわけないでしょうが。
いやうん、しかしそうなんだ。純真無垢なサフィーがいるのに彼らを出し抜こうと考えていた私が愚かだったっていう話。
「サフィー。シエラさんには街の外に出たいって伝えて」
「うん。分かったよ」
とてててっと私の言う事を鵜呑みにしてサフィーが駆けていく。
私に対する絶対的な信頼。もちろん私の目が映す限り、あの子の笑顔を奪おうとする一切を寄せ付けやしない。
あの子の笑顔は癒やしであり、眩しいお日様のようなものでもあるの。
あれほどまでに信じてくれるのには、サフィーの好きなお兄様が絡んでいるということがちょっと癪だけれど。
──えへ。じつはおにーさまから聞いてたの。かわいくてカッコよくて天使さまみたいな女の子って。
──はいっ? えぇと、そのお兄様とやらはもしかして。
──うん、レイおにーさま。
──……あんのバカ犬。
──ふぇ?あっ、でもねでもね。わたし、メリーちゃんと会えて本当に思ったの。すごくカッコよくて、ほんものの天使さまだって!
思い返してみると何だか照れくさいかな。
レイは昔から何でも私第一主義だから今さらのこと。だけれども彼の言う事にまともに取り合う者は普通はいない。
幼いが故の夢物語の一つにしてすぐ忘れてしまうもの。と思っていたのだけど。
本当の私を垣間見ても全然離れては行かなかった。
恐れることなんて、なかったんだ。キラキラと目を輝かせて、より一層知りたいというように私の元へ歩み寄ってきた。
だから私は心に決めた。私の持てる全てで彼女を立派な王女に、誰もが認める最高のお姫様にしてみせよう、と。
出し惜しみはしない。子供であることを理由に止めようと言うのなら、私の全力を持って分からせてあげようじゃないの。
「メリーちゃんおまたせ」
「大丈夫だよ。どうだった?」
「えへへ。帰る時間はこちらで決めますからね、だって。あとね、街の外に出るのもとおいから送らせてくださいって」
「上出来じゃない」
もう一度撫でて手を離すと、もっとと言うようにずいっと体を寄せてくる。
わ、分かったから。甘えん坊なところはきっと一生変わらないんだろうな。
知り合って3年。何一つ負けないお姉さん気取りだけれど、背の高さだけは勝てていないのが本当に悔しい。
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