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「おかーさん」
「なぁにメリーちゃん」
若々しく美人な母が笑顔を向けてくれる。
将来私もああなれるんだよね。もちろんしっかりと大きく成長するんだよね。
「あの、どうしても欲しい物があります」
「……どうしても?」
「はい」
そんなに欲しいのなら自分で、と以前の私なら言うんだろうけどさ。
子供の身じゃあ本当制限が多くてね。ああもう面倒くさいと思うんだよね。時々ね。
「いいよ」
「ふぇ?」
「いいよ。ちゃんと用意してあげるからね。でも代わりに一つお願いを聞いてもらおうかな。ね?」
「う、うん」
笑顔が、笑顔が怖いですお母様。
「本当羨ましいくらいにお肌がすべすべ」
「あ、ありがとうございます」
大事に大事に触れられるのは決して不快ではないんだけれど、余計に恥ずかしさが増す気がするのは私だけですか。
綺麗でたわわなお母様からのお願い事は簡単、一緒にお風呂に入ろうと。
確かにですね、お世話されるのは苦手なので数年前からお風呂は自分だけで。
裸の付き合いとかよく言うけれど、お風呂は一人でのんびりリラックスしたいと思うのは私だけ?
「メリーちゃんは絶対に美人さんになるわね」
「……なれるかな」
「なれるわよ。私の娘ですもの」
「ん」
娘だから、希望があるの。たとえ今は平坦でも。
「ところでメリーちゃん。王子様とは順調かしら?」
「ふぇ!?いやいやいや、レイとは別になんとも」
「レイ、ね。仲が良くて羨ましいわぁ」
「あぅぅ」
ご、誤解しないでくださいね。レイとはただの腐れ縁で本当にそういう感情は一切ないですからっ。
「なぁに?それとも他に気になる子がいるの?」
「いないよ!?」
「うふふ」
何を言ってもにこにこ笑顔が返ってくる。
抱っこされてふかふかだなんて思っていたけれど、この素敵クッションには脱出不可の罠が仕掛けられていたとは。
「まあまだまだこれからですもの。王子よりイイ男だって現れるかもしれないわね?」
「知らないよぅ」
「ふふ。メリーちゃんは必ず美人さんになるから将来モテて大変よ?困った時はお母さんに相談してね。約束よ」
「ぅん」
まったくもぅ。どうしてこう皆恋だの愛だの、夢中になれるんだろう。
「だって一人ぼっちは寂しいじゃない?それにね、たとえ上手くいかなかったとしてもその出会いが人を成長させてくれるの」
「えーと、うん」
「繋がることで強くなれるの。様々な出会いが人を変える。別れもまた糧となって強くなれるから」
「そう、なんだ」
必ず別れが来てしまうのなら。自分だけが取り残されてしまうのなら。
出会いなどないほうがいい、と。
そう決めたのはいつのことだっただろうか。
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