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「ママ。今日はこーえんにあそびに行ってくるね」
「はーい。気を付けて行ってらっしゃい」
「うんっ。行ってきまーす」
あの日以来必ずどこに行くかちゃんと伝えようと決めた。
大事に思ってくれているんだもん、心配なんてかけられないよ。
それから、私の記憶を取り戻すきっかけとなったあの場所は、実は私たちの暮らしている村からちょーっとばかし離れた所にあった。
もっと言うと小さな私がどれだけ背伸びしたって村の中からはまともに見えることのないような場所。
どこをどう間違ってあんな所に迷い込んでしまったのか。
──『ご主人様。こんな所にいらっしゃったんですか』
『あっ、リクじゃない。どうしてこんなトコに? あ、ほら見て。ここからだとすごく綺麗な雪景色が見えるわよ』
『みたいですね。こんな断崖絶壁に立ってなければ感動ものでしょうけどね』
『なによぅ。素直に感動しなさいよ』
『感動しようにも、ね。ちょっと出かけてくると言って1週間も帰って来ない貴女を探してこんな場所まで来た私の身になって下さいよ』
『……あ、あはは。まあそこは、ね? リク。生きているんだから何でも楽しんだほうが良いじゃない』
『はぁ……ともかくあと1時間もしたら帰りますよ』
『へへっ。リクありがとっ』
遠い過去の記憶。まさか極度の方向音痴が発揮されたとかはない。ないよ、ね?
あの子は元気にしているかな。
私がいなくたって何でも出来るのに、ずっとくっついて離れなかったあの子。
それも可愛いけどもったいないって言うのかな。
不自由させたつもりはもちろんないけど、今度は好きに生きていてくれてるといいな。
公園に向かう途中カシャンカシャンと小気味良い金属音が聞こえてきた。
割とまあ普通のことなんだよね、鎧を着た人が往来にいるなんて。
でもたぶん、今回のこれは大きさ的に団体さんですね。
こんな田舎にまでご苦労様です。
──こ、皇太子殿下!? どうしてこんな所に!?
村の人たちの焦り声まで聞こえてきた。
ちょっとヤバいね。私なんかは絶対に遭遇してはいけないように思います。
どうしよう。公園に行くって言ったけど今日はもう帰ろうかな。
なんて、思ったんだけどね。
下手に動くと極度の方向音痴が発動してばったり、ってなる気がひじょーにしてきた。
「めーめーちゃん?」
「ふぇ?」
誰ですかその眠りを誘うような人は。
振り返ると小さな女の子が一人で立っていた。
こら、危ないでしょう。幼気な女の子が一人でふらふらしているなんて。
って、私もだよ。
「ぇっと。なぁに? フレアちゃん」
「っ! やっぱりめーめーちゃんだ!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべる少女は私の友達の一人。実は私より2つお姉さんらしい。
「この前急にいなくなっちゃうからしんぱいしたんだよ」
「ふぇ。う、うん。ごめんね」
「えへへ。いーよ。許してあげる」
にぎにぎ。
数日ぶりの再会を喜ぶ可愛い子だ。しっかりと守ってあげねば。
「えへへー…… あっ。えーと。あー、うー」
パッと手を離して緩んだ口元を引き締めると今度は悩ましそうに体もゆらゆら。
ちらりちらりと私に向ける視線のその意図は。
「フレアちゃん」
「っ。な、なぁに?」
「あのね、わたし、今からこーえんに行こうかなって。それでね、フレアちゃんもいっしょ」
「行く!」
言い切る前に元気一杯の返事が来た。
そしてそのままお姉さんモード。私の手を引いて軽快に歩き出す。
まあ、うん。とても可愛らしくていいんじゃないですかね。
子供は風の子たくさん遊びましょ。偉い人なんてしーらない。大人の人が頑張るの。
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