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青い鳥
「ねえ、『青い鳥』って物語があるの、知ってる?」
振り返り際、青海(あみ)の綺麗なロングストレートヘアの内側に、青いメッシュが入ってるのが見えた。
「知ってる。童話でしょ?」
当然という顔で、わたしは答えた。
子供の時から周りの子に、地味子だの言われてきただけあって、本や文芸のことは割と詳しかったりする。
「そう。藍(あい)ちゃん詳しいんだ。」
「まあ、本のことなら、少し。」
あまり褒められなれていないわたしにとって、彼女の言葉は嬉しくも、くすぐったくも感じられた。
「ふぅん。そっか。じゃあ、あれ、どう思う?」
「あれ、、とは?」
「うん。あの物語のエンド。」
青海の言葉に、わたしは物語を思い返す。
「チルチルとミチルが探してた幸せの青い鳥は、実はずっと家の鳥かごの中にいて、幸せは身近にあるんだよって、、そういうお話だったと思うけど。…」
わたしの言葉に大きく頷く青海。
「うん、そうなんだけどさ。でも私、あのストーリーはそれだけじゃないと思うんだよね。」
どういうことだろうか。…
彼女とは長い付き合いのはずなのに、わたしは時々、青海が遠くに感じる時がある。
「青い鳥を探す冒険で、チルチルとミチルは色々な人と出会って、色々な場所に行った。狭い世界で貧しい暮らしをしていた2人が、初めて外の世界で色んな事を経験するきっかけを、青い鳥が与えてくれたんだろうなって。
だからさ、青い鳥探しの冒険自体が、2人にとっての宝物で、手にした幸せなんじゃないかって私思うんだー。」
青海が大きく背伸びをした。
「ねえ、藍ちゃんはどう思う?」
色素の薄い透き通った瞳が、わたしを真っ直ぐに見つめる。
ああ、この目…。
だからわたしは青海に惹かれてしまう。
わたしにはない、何か芯の通った感じ。
「わたしは…」
まだ答えは浮かんでこない。
でも、今答えないと、青海が童話の中の青い鳥のように飛び去ってしまいそうな気がして、わたしは必死に声を出した。
まだ拙い言葉だったかもしれないけど、何も言わないよりかはきっとましだ。
2羽がの青い鳥が、風を切って羽ばたく音が、わたしの耳の奥で響いた。
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