Chapter1☂︎*̣̩・゚。・゚

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 私は小さくため息をつき、せっかく買ったからとビニール傘を開く。  雨が止む様子はないが、さっきよりはいくらか弱くなったように思う。  帰ろうと一歩足を踏み出したとき、すぐそこのゴミ箱前辺りに誰かが一人で立っていることに気がついた。  スーツ姿の大人の男性。細身で背は高く、いかにも高級そうなスーツがこれでもかというほどに馴染んでいる。  横顔しか見えないが、切れ長の目といい、筋の通った高めの鼻といい、ずいぶん綺麗な顔立ちをしている。テレビで見るような俳優やモデルだと言われても納得してしまいそうだ。  そんな人生勝ち組みたいな容姿の彼だが、表情は物憂げで、ぼんやりとあまり焦点が合っていなさそうな目で空を見上げている。  コンビニの建物の軒下にはかろうじて入っているものの、降り込んでくる雨で髪やスーツが少し濡れていた。だけどその濡れているのにも気づいていないのではないかと疑うほど、彼は微動だにせず、ただ空を見ている。  どうしたんだろう。私は彼から目が離せず、しばらく静かに見つめていた。  もしかして雨が止むのを待っているのだろうか。コンビニ前にいるのだから私みたいに傘を買えばいいのに。あ、でも安いビニール傘は私が買ったので最後だった。  私はほとんど無意識に、彼の方へ歩み寄った。  いつもなら見ず知らずの人のことなど気にも留めないし、ましてや話しかけるなんてことはしない。  だけど今日は、先ほど一杯だけ飲んだレモン酎ハイで、ふわふわと少し気持ちが緩んでいたのだろう。 「この傘、使いますか?」  そう声をかけると、ようやく私の存在に気がついた彼が、ゆっくりとこちらを向いた。  私の姿を捉えた彼の目は、戸惑ったように泳いでいる。
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