Chapter1☂︎*̣̩・゚。・゚

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「傘がなくて雨宿りしているのかと思ったので。良かったら使ってください」 「……君はどうするの?」  形の良い唇がゆっくり動き、大人っぽく落ち着いた、耳に心地よい声がする。  私は彼の方へ傘を差し出しながら答える。 「折り畳み傘持ってるのに間違えて買っちゃったんです。持って帰っても邪魔になるので」 「……そう。ありがとう」  彼は弱々しい笑みを浮かべ、まるで壊れやすい貴重品でも扱うかのような慎重さで、私からビニール傘を受け取った。  今にも泣きだすのではないかと心配してしまうほど曇っている表情に、何かあったのかと聞いてみたいという衝動に駆られたが、さすがにそれはお節介にもほどがある。そもそも人とコミュニケーションをとることが苦手な私に、今初めて会った人とこれ以上会話をすることなど不可能に近い。  大人にはきっと色々あるんだろう。お酒が飲めるようになったのもつい数か月前という私には想像できないようなことが色々。 「では」  私は彼に軽く会釈して、バッグから折り畳み傘を取り出す。  これ、壊れかけてて開くの大変なんだよな。骨組みを一本一本手で開いていかないと上手く開かない。  どうにか開ききり、また雨が強まる前に帰ろうと歩き出したとき、先ほどの声に止められた。 「あ、君ちょっと待って」  振り返ると、私から受け取ったビニール傘をさした彼が、しゃがみ込んで何かを拾い、私に差し出した。 「これ、君のだよね。落としたよ」  大学名と氏名が記された、顔写真付きのカード。学生証だ。  バッグにそのまましまい込んでいたから、折り畳み傘を取り出したときに落としてしまったらしい。これは無くしてしまうと再発行の手続きが面倒くさいしお金がかかる。
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