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若くして夢だった店を持った優羽さん。何でも高校生のときに通っていたカフェの店長に憧れたのがきっかけらしい。
大きい店よりも、常連客が和める隠れ家的存在の店にしたいという思いのもと、一年半前にオープン。そこで偶然アルバイト募集の貼り紙を見つけたのが、大学入学直前の私だったというわけだ。
「ごめんね……時給は増やせないけど、代わりに残り物持って帰って良いから!」
「ありがとうございます、すごく助かります。しばらくご飯はもやしだけかなって思ってたので」
「ええっ、だめだよ夏怜ちゃん。ただでさえ細いのに栄養摂らなかったら倒れちゃうよ」
眉をひそめ怒ったように言う優羽さんに、姉がいたらこんな感じなのだろうなと思う。一人暮らしの私を何かと気にかけてくれる優羽さんは、たまにこうしてカフェで余った料理や食材を分けてくれる。このカフェのメニューは賄いとしていくつも食べさせてもらっているが、どれも美味しいので、帰ってからも食べられるのは嬉しい。
しかし、食費については優羽さんの協力で解決するにしても、実はまだ大きな問題がある。月末近くになり、そろそろ支払わねばならない家賃だ。
来月短期バイトの収入があることを前提にやりくりしていたので、色々計画が狂ってくる。サクッと雇ってもらえる即日払いの単発のバイトを入れるしかないか。それにしたって一度大家さんに遅れるかもしれないと相談に行っておかないと。
シフトが終わり、服を着替えながら私は一人ため息をつく。
約束通り残り物をタッパーに詰めて渡してくれた優羽さんにお礼を言い、アパートまでの道を歩く。九月もあと一週間で終わるというのに、外はまだまだ暑く、周りを見ればほとんどの人が半そでだ。
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