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「ぅ、あ゛~……ッ♡」 ……オナってる。 今日からの三連休、耕太が実家に帰省して、居ないから。 帰省、って言っても別に大した距離じゃない。電車で1時間半かけて行けるくらいの実家。それでも、今までの距離と比べれば別物だ。だって、前は連絡すれば20分もしないで耕太に会えたけど、今は1時間半かけなきゃ、耕太と……エッチができない。 元々この三連休は、例のふたりキャンプに行く予定だった。でも俺がこんなカラダになったから延期しようってことになって、お互い予定はフリーになってて。 だから、それなら、今度は3日間、カンヅメエッチできるかと思って期待してたのに……昨日別れ際にいきなり、「実家帰る」とか言うんだぜ、あいつ。拍子抜けすんじゃん。耕太に剃られんのやだから、脚の毛、先に自分で剃っちゃったのに……。 「んぁ♡ぅあ♡んく……ッ!♡」 クリを引っ掻いて、イく。ビクビク跳ねる身体に響く快感を、ベッドの中で受け止める。 「はぁ、はあッ、はぁ゛……ッ♡」 もう、今日、イくの、何度目だろ。 3回目からは、数えるのも、やめた。 ねむい。だるい。なんもやる気が、起きない。ああ、こんな時、俺、いつも、どうしてたっけ。最近はずっと、耕太とエッチ、してたから……。 「──……、」 枕元に転がってたスマホを手にとって、だらだらと操作する。開くのはSNS。ぼうっとTLを遡ると、耕太……『yomi』が、最近描いたエロ絵をpixivにまとめてUPしてるツイを見かけた。なんだよ、絵の整理してたの?暇そうにしてんじゃん。しかもツイは2時間前の投稿なのにもう4桁いきそうなくらいいいねがついてて、すげーな、と思う。 URLをタップすると、10枚くらいの絵が並ぶ画面が出てくる。 それはどれも男視点で、ヤってる状態や、ヤる前の女の子単体を描いたものだった。あ……これ、ちんこ握ってるの、この前俺が手コキしたやつ……あ、こっちのちんこハメたままでイってる絵はカンヅメエッチのやつだし。この手マンでイってるのも、完全に俺じゃん。 「……」 それは、俺が見れば、どう見ても「俺」だってわかる絵ばっかりだった。耕太と俺だけがわかる秘密のハメ撮り画像みたいに、どれも、俺と耕太のエッチが反映されてるものだった。 なんだ。やっぱり。俺じゃん。 これ。俺。なんじゃん。 俺。 俺……なのにな。 ……本当、なんで、それを誰も、知らないんだろう。 ここに「俺」がいるって、なんで誰も、知らないんだろう。 今まで耕太に感じてた優越感がまるで裏表になってひっくり返るように、ぼんやりとした、でも行き場のないむなしさがじくじく滲んでくる。 そんな嫌な気持ちを抱えたまま画面を下へスクロールしていくと、投稿されたコメントが目に入る。 『1枚目いいですね 女神画像を漁っていたのを思い出します』。 「1枚目……」 なんとなくそのコメントが気になって、もう一度画像を遡って1枚目の絵を確認する。するとそれは俺が──いや、女の子が、自分からまんこを拡げてる画像だった。他の絵を見ても、相手がいない絵はこれだけだ。 俺が、最初に、耕太へ今の俺を見せたのと同じポーズ。 俺がこんなカラダになった、はじまりの格好。 「女神……」 女神、か。 そういえば前は何度も、耕太から「男の娘女神になれる」とか言われてたっけ。そんなの前はなんの興味もなかったし、俺がそんなことしたって、キモいだけだろって思ってたけど。 「……。」 でも、そっか。 そういうことも、できるのか。 そりゃ、俺の身体は、男のままだけど。だから今もそこそこ普通に、生活できてるわけだけど。でも、股間だけはまんこがついてて……そこだけなら「女の子」なんだよな、と思う。 それなら。 俺も。 俺だって……。 「──」 かすかな興味本位で、SNSを漁ってみる。すぐにいろいろ裏垢みたいなアカウントが出てきて、意外にもそれは女の子だけじゃなく、男が普通にやってるものも多かった。女の子だったらエロいコスプレして谷間見せたり、オモチャにフェラしたり。男だったらエロい女装したり、ケツにオモチャ突っ込んでるトコ動画にしたり……。 そのどれもびっくりするくらいフォロワがいて、びっくりするくらいいいねがついてて、数字のインフレもかなり激しい。 「っ……」 今まで考えたこともなかったけど、男でも女でも、そういう需要はある、みたいだ。 それなら俺も。 需要……。 あるのかな。 バカなことかな。でも。エロい写真撮って。アップして。ちやほやしてもらえたら。うれしい、かな。俺の。この。変な感じのモヤモヤも。どっか行ったり、するのかな。 俺は耕太と違って、なんにもない。 なんにも、できない。 やりたいことも、つくりたいものも、ない。 それなら、こういうこと、したって。 こういうこと、しか。 「……。」 俺はゆっくりとスマホを自分へかざして、下半身だけが映るように、股間を手で隠して自撮りの形で写真を撮る。パシャ、というシャッター音に液晶画面を見れば、わりとエッチに見える写真が撮れていた。見えてないのが逆にエロい、みたいな。脚の毛も運良く剃ってたからつるつるで、わりと見栄えもよくてきれいだ。 こ。これ。いける。かな……。 「っ……」 確か、いっこ使ってないまま放置してたアカウントがあったはずだ。あ……あった。なんも投稿してない。これなら。つかえる。かな。 簡単にしてたパスワードからなんなくログインして、投稿画面から、写真を開く。まだ昼間の室内。壁側を背中にしてるから、変なものも写り込んでない。服もほとんど見えてないし、だいじょうぶ。だと。思う。 ……こんなんじゃ。ぜったい。バレたり、しない。 ドクドクと速まる心臓。すこしだけ手が震える。でも、どんなことにも興味や関心が薄かったこんな俺が、なにかを自分から「やろう」としてることを、俺自身が、とめたいとは思えなかった。それは今までの俺とは違う、一歩を踏み出そうとしている俺で、だからそんな俺を、俺は、とめるべきじゃないと思った。それがどんなばかなことだって、自覚、してても。 「ッ」 ぎゅ、と押しつけるように親指で画面をタップすると、あまりにあっけなく写真はSNSに投稿された。シュポン、って音と一緒に文章もなんも入ってない画像だけのツイが、TLにアップされる。もう外にも聞こえるんじゃないかってくらい、鼓動が鼓膜にバクバク響いてて、今更緊張で、汗が吹き出す。 や、やっちゃった。 投稿、しちゃった。 やばかった、かな。まずい、かな。今ならまだ、引き返せる、かな。ま、まだ、誰も、見て、ないし……っ。 「う、うわっ」 でも、そう俺が思うと同時に、ブルッとスマホが震えて通知が届く。いいねがついた通知だ。えっ。う、うそ。なんも、宣伝、して、ないのに?こんなっ、すぐ、見つけられちゃう、もん、なの?しかも通知は立て続けに数件来て、今度こそ俺はテンパる。 「ぁ、わ、うわ、わっ」 SNSで自分からまともな発言したことなかったせいで、通知の仕組みもよくわかってない。アプリの下の方につく数字にビビれば、自分の名前が、IDと同じままだってことに気づく。 「あ、なまえ」 呟いて、声まで震えてることがわかって、どんだけ焦ってんだって自分に可笑しくなる。でもこのままじゃさすがにアレだよな。なまえ。名前、どうしよう。なまえ。なまえ。なまえ……っ。 『晴樹』 「……っ」 頭の中にリフレインするのは、なんでか、耕太が、俺を呼ぶ声。 はるき。 晴れた太陽の光を浴びる樹々みたく、健やかに育ちますように、っていうのが名前の由来だったっけ。どうでもいいことを思い出しながら、俺はプロフを開いて、自分の名前を『雨』にする。『晴』じゃ、さすがにそのまますぎると思ったから。本名はちょっと、ヤバいだろうし。そのままプロフのとこも直して、なんとかホームの画面を整える。あ、アイコン。アイコンは、もう、あとで、いっか……。 「はぁっ……」 ばたん、とベッドに倒れ込む。 写真撮って画像アップしただけなのに、ものすごい、疲れた。一気にまどろみが襲ってきて、俺はうつらうつらしながら、ゆっくりと瞳を閉じる。 『雨』。 暗くなる視界に映る、「もうひとり」の俺の写真に。また、後戻りができないようなことをしちゃったかな──と、離れる意識に、思いながら。
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