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「あとー……本、だけか」 俺はしぶしぶチャリを走らせて、駅前のビルまでおふくろに頼まれた買い物に出ていた。この辺じゃ唯一の、商業ビルみたいなとこだ。 買うものは来客用の菓子とか、ちょっと良い緑茶や紅茶の茶葉とか、そういうの。あとは昨日出た園芸雑誌の今月号。ここらは本屋って言うとこのビルしかないから、おふくろの主目的はきっとこの雑誌だろう。 食料品で他の目当ては買い終えて、上の本屋へ向かう。 チャリを走らせてる間も、買い物をしてる間も、俺はさっきもらったDMや、フワフワした感情のことを考えていた。 俺と「いっしょ」の人がいる。 俺と「おなじ」、人がいる。 それは不思議な感覚で──でもそれはたぶん、今までの俺じゃ、実感すらできなかった感覚だろう。 俺はこれまで、なんの目的もなく生きてきた。耕太にくっついてあれこれいろんなことはしてきたけど、それこそ裏垢なんてものに手を出すまで、やりたいことも、したいことも、なにもないまま、きれいに、「なにもないやつ」として生きてきた。 つまりは一緒とか、同じとか、そういう意味で「繋がれる」やつが全然いないまま、これまで19年間、生きてきたんだ。 だから俺はいろいろなことに無関心で、無自覚でいられたし、よくも悪くも、「部外者」のままだった。同じで、一緒だってことは、「繋がれる」のと同時に、「競合する」ってことなんだから。 「っと……」 エスカレーターで本屋のフロアへ上がる。 ここの本屋は1階まるごとを本屋として使ってる、かなり大型の書店だ。ここも学校帰り、耕太と何回も来たっけな。通販よりも実際手にとって買う方が好きだから、って。 先に雑誌のコーナーで目当ての園芸雑誌を確保してから、ぶらっと他のコーナーを見て回る。そうすれば自然と足は耕太と行ってた漫画のコーナーへ向いていて、そこでは平積みされた新刊が、所狭しと並んでいた。 「……」 久しぶりに見る光景に、俺は「つくられてる」ものがこんなにいっぱいあるんだって実感する。 絵も。漫画も。こんなにたくさんの数がある。数え切れないくらいの作品が世に出てて、それはこうやって店に流通してるものだけじゃなく、同人とか、SNSとかにだって、星の数ほど存在してる。 ……そうだ。耕太も。この世界の中で。「競合」、してる。 たくさんの、同じ、一緒の、そういう「つくる」やつらと等しいとこにいて、それを耕太自身も知ってて、だからたぶんあんなに、自分を底辺なんて言いながら、毎日、毎日、毎日、絵を描いてる。 それはひとりじゃないから。部外者じゃないから。当事者、だから。 そうやって競合する中できっと必死に、足掻いてるから。 「……。」 そしてもう俺も、「そこ」に居る。 耕太と、ぜんぜん、程度は、違うけど。 でも。 誰かと……いや、DMをくれた人といっしょの、おなじの、そういう立場で、耕太と同じように、俺ももうそこに立って、迷いながら、情けなく、足掻いてる。 きっとその悩みや、足掻きは、「その中」にいる誰もが、同じように持ってるものなんだろう。だって俺でさえ、そう思うんだから。 それが「競合する」ってことで、「誰か」がそこにいるってこと。 ああ、そうか。 いっしょだって、おなじだって思うのは、俺も、今、競合してるからなんだ。 そして、その想いに──共感、してるからなんだ。 競合して。 共感して。 それって。 つまり。 俺、いま。 ──耕太と「同じ気持ち」、って、ことなんだ。 「……、」 もしかしたら。 ……もしかしたら。 それって。 それこそ。 そう感じられた、「気持ち」、こそが。 俺も、今は間違いなく、迷いながら足掻いてるって「実感」、こそが。 追いつくとか、見合うとか、関係なく。 価値とか、すごさとか、関係なく。 耕太と。 すこしでも。 ほんの、ちょっとでも。 俺が。 そういう、共感の、中で。 「同じ場所にいられる」、ってことなんじゃ。 ……ないの、かな。 「──っ」 スマホが、震える。 通知が下りる。 LINEだ。 ──耕太、から。 『ひま。晴樹にあいたい。晴樹かきたい。晴樹とやりたい』 画面を開くと、そんなメッセが飛び込んでくる。 「ッ……、」 それを見た瞬間、一瞬で、きゅうっと、きゅうううっと、身体が反応するのを感じる。こんなただのメッセだけで、意識のぜんぶが耕太へ向かって、それだけになる、俺がいる。 なんでだろう。 なんで、だろ。 まるで自分の気持ちの正解を俺の身体こそが指し示してくるみたいに、やっと自分の中でわかりかけた耕太の存在が、こんなにも俺のぜんぶを歓ばせる。やっと自分の中で掴みかけた感情が後押しでもするように、土本耕太っていう相手を、激しく、求め始める。 「ッ……♡」 一気に、それまで忘れていた感覚がカラダへ襲う。……性欲だ。 なんにもしてないのにじわっとまんこが濡れてきて、ムラムラしてたまらなくなる。耕太にさわりたくて、耕太とエッチしたくて、たまらなくなる。耕太のちんこがほしい。耕太の身体がほしい。「耕太自身」が、ほしい……っ♡ 「ッ──!♡」 マッハでレジに雑誌を通して、マッハでチャリを漕いで家へと戻る。 もうそれしか考えらんなかった。耕太がいないってわかってても。耕太に会えないってわかってても。いや、いなくて、会えないって、わかってるからこそ。耕太のこと考えて、オナることしか、考えらんなかった。 「ただいまっ!」 誰もいない家で意味のない挨拶をして、リビングに買ってきた品物を放り投げて、部屋へと走る。 「はぁ、はぁッ♡はあっ♡」 急いで下だけ全裸になって、ベッドの中へ潜り込む。身体が限界なくらいに火照って、もうひとつも、がまん、できない。 「あ♡ぁッ♡ふぁッ♡」 ぅぁ、すごっ♡まんこッ♡ぐちょぐちょッ♡なんにも、して、ないのにっ♡耕太のこと、考えてた、だけでっ♡ねちょねちょの本気汁っ♡すごいことに、なってるッ♡ 「やっ♡ぁッ♡てぇ♡てぇとまんないっ♡」 指を突っ込むと、自分の指なのにちゅうちゅう吸いついてくる。クリを撫でると、それだけで、身体が跳ねる。 「ん、ぉッ!♡」 これっ♡お、俺の、カラダっ♡も、もうっ、完全にッ♡耕太のことしか、考えて、ないっ♡ぉ、俺の、キモチ、よりッ、さきにッ♡カラダのほうがっ♡こーたにッ♡めろめろにっ、なってるッ♡ 「やだッ♡やだぁッ♡まんこッ♡先、こすな、よッ♡」 ずるいッ♡俺のまんこ、ずるいっ♡俺より、さきにッ♡こーたで、気持ちよくなってッ♡こーたのちんこ、知ってッ♡ずるいよッ♡おれッ♡おれだってッ♡おれ、のがッ♡もっとさきにッ♡もっとはやくッ♡こーたのことッ、見てたのにッ♡こーたのこと、知って、たのにッ♡それ、なのにッ♡かってにめろめろの媚び媚びに、なってっ♡勝手に発情、してッ♡こーたのこと、夢中にさせんのッ♡ずるい、よぉッ♡♡♡ 「おれッ♡俺のがッ♡こぉたのことッ、すき、だもんッ♡俺、だってッ♡ちゃんとこぉたの、ことッ♡すき、だった、もんッ♡♡♡」 じぶんでも、もう、きもちよくて、なに言ってんのか、わかんない。はやくイきたくて、こーたのこと考えてイきたくて、それ以外、考えらんない。 「ぁ♡あッ♡イクっ♡イっちゃうッ♡こぉたッ♡こぉたッ♡おれイク♡いくよぉッ♡」 ぐちゃぐちゃに指をうごかして、ぐりぐりクリをいじくり回して、腰あげて、あ、クる、クる、きちゃう、と思う。ぅぁッ♡こぉたッ♡こぉたッ♡おれっ♡こぉたでイクっ♡こぉたッ♡こぉたでッ♡イクっ♡イクぅッ♡♡♡ 「う゛ッ♡ぅあッ♡ひ、ぐぅ……ッ!♡♡♡」 プシャッ、と指に潮がかかる。ギュウウウっ、とナカが締まって、奥がキュンキュン鳴いて、突き上げるような快感で、俺はイく。 「ぁ゛、ッ♡ふぁッ♡ひぅッ♡ひぅぅ、ッ……♡♡♡」 ぁ、イ♡イってるッ♡きもち、いッ♡つづいてるッ♡こ、こぉたの、こと、考えるとッ♡ぅぁ♡ずっと、カラダっ♡きゅうって、する……ッ♡ 「んぅ♡ぅ♡うぅ゛……ッ♡」 ジンジンと疼く全身から快感を逃がすように、とすんとベッドに崩れ落ちて、息を吐いて身体を丸める。何度か深く呼吸を繰り返せば、ゆっくりと気持ちよさが引いてきて、おかしいくらいだったムラムラがようやく、治まってきた。 「ぁうッ♡はぁッ♡こぉたッ♡こぉ、た……ッ♡」 全身を弛緩させて、仰向けに、だらりと天井を見上げる。枕元に投げてたスマホをとって、それを開く。 そこにはさっき耕太から送られてきたメッセが当たり前に浮かんでいて、それを見ると、やっぱり俺のぜんぶが、耕太へ向かうのを実感した。 「う……♡」 メッセを、指先で、なぞる。 俺のほしいものが、ここにある、と思う。 俺が耕太からほしいものが、確かに、ここにあるって。 エッチしたいのはわかる。俺だってそうだ。だから今だって夢中で、オナニーした。 でも、このメッセには、耕太が俺を本質的にどう思ってるのか、俺へ向けてる欲望がどんなものなのか、その順番が、そういう優先順位がちゃんと、表れてる気がした。 それがなにより、俺を耕太へ向かわせた。 「やりたい」、が先じゃなくて、「かきたい」、が先なのが。 そしていちばん最初に「あいたい」、なのが。 なんか、ものすごく。 ひびいて、しまった。 やりたくて。かきたくて。あいたい。 どこまでもシンプルな言葉だからこそ、それがまっすぐ、俺の心に突き刺さる。 俺自身も見えてなかった俺のそのものが、耕太の気持ちで波紋を拡げて、俺にかたちを、教え始める。 耕太の存在は、俺の中で、こんなにも、おおきい。 こんなにも俺自身に、深く、ふかく、関わってる。 「……。」 ほんとはこうなる前から、そうだったんじゃないだろうか。 ほんとはずっと、そうだったんじゃないんだろうか。 俺がいるから耕太は今の絵を描いてるみたいに。 俺と出会ったから耕太は今の耕太でいるみたいに。 俺も、耕太がいるから。 耕太といた4年間があったから。 今の俺も、まちがいのない、「俺」でいるんじゃ、ないかって──。 「──。」 俺はスマホのカメラを自撮りにして、脚を開いて、顔も隠さず、写真を撮る。パシャ、というシャッター音に液晶画面を見れば、男のままで、女の子の股間をしてる、耕太しか知らない、俺がいる。 今の俺だ、と思う。 今の、なんにも偽ってない、天中晴樹だ、って。 SNSのアプリを開いて、『雨』のIDをコピーする。 俺はそれを、写真と一緒に耕太のLINEへ送信する。 そしてぽつぽつと、メッセージを打つ。 ポシュン、ポシュン、と音がする。 『俺がさ』 『女神してる、っつったら』 『こーた』 『怒る?』 なにも考えないで打ったメッセだった。 でも、なにも考えないから出た本心だと、打ったメッセを自分の目で追って、そう気づいた。 俺はやっぱり、女神になりたいんだと思った。 その気持ちを、ずっと抱いていたんだと思った。 そしてその願望は、この質問の耕太の答えで、なによりも明確になるんだと思えた。だからそれは、俺の中のいろんな気持ちになにもかもの答えを出してくれる、すべての問い掛けのように、思えた。 俺の想いが。 俺の気持ちが。 どんなかたちをしてて。 ……どんな名前を、してるのか、って。 送信と同時に既読がつく。 そして秒で、返信が来る。 『今からそっち行く』 『絶対、動くな』 「……へっ?」 その返信に、がばっと、起き上がる。 なんでかって、そりゃ、驚いたから。 いまから。 そっちへ。 いく。 って。つまり。耕太。こっち、来るってこと?え。な、なんで。つーか返事。俺、怒るかって聞いてんだから。だから、その返事が、聞きたいのに。その返事だけ聞ければ、俺、それで、いいのに。それで、俺の気持ちにも、きっと答えが出る、はずなのに。つかここ、実家。俺の。実家だよ。一人暮らししてるマンションじゃ、ないよ。え。え。えっ?耕太。なんで。なんで。こうた。どうして──。 「っ」 呆然としてたからか、わけわかんなくなってたからか、すぐにスマホが震えて驚いた。いつの間に1時間半経ってたんだろう。そこには『着いた』ってメッセが通知で浮いていて、マジで来たのって、そう思う。 下着穿くの忘れて、スウェットだけ慌てて履いて、階段を下りて玄関のドアを開ける。そこにはホントに耕太がいて、俺を、怒ったように、睨みつけていた。 ……あ、これ、はじめて見る顔だ、って。思った。 「ッ、晴樹ッ!」 「ぁ、うわっ」 胸倉を掴むように詰め寄られて、バタン、とドアが閉まる。やけに真剣で、やけに焦ったような耕太が、鬼気迫った様子で、俺へスマホの画面を見せてくる。 「これ、なんだよッ!?」 「え、」 「お前っ、これッ、意味、わかってんのかっ!?」 「っ……」 俺を怒鳴る、耕太も、はじめて。 そこではじめて、俺、耕太にガチギレされたことなかったんだなって気づく。それは俺も同じだけど、でも、こんなマジに怒られたこと、この4年で、一回もなかったんだな、って。 「なんだよ、この、アカウント……っ!俺に、内緒でっ、晴樹っ……裏垢とか、やってたのかよっ!?」 「こ、耕太っ、ちょい落ち着け、って」 まくし立ててくる耕太を、肩を掴んで押し返す。キレるのがはじめてだってわかっても、キレてる理由が裏垢のことだってわかってても、どうしてここまで耕太がキレてるのか、俺にはさっぱり理由がわからない。そもそもいきなり耕太が家まで来た理由だってわからないうえ、ここは実家の玄関先だ。 「落ち着けるかよっ!晴樹が、こんな、こんなことしてるって、そんなん、そんなの……ッ、無理に決まってんだろッ!?」 「うわッ」 それでも耕太は収まらない。俺の服をつかんで、むちゃくちゃに、乱暴に、揺さぶってくる。 揺さぶって、そして。 「なんだよ、なんでだよっ、はるきッ、晴樹はっ……おれっ……俺だけの、だろッ!?」 ……泣きそうな顔で。 俺を、見つめて、くる。 「こ、こうた……っ」 わからない。 わかん、ない。 なんだよ。 なんで、そんな顔、すんの。 おれの。 俺だけの、って。 なに? 「あの画像、なんだよ、マジでっ、晴樹はっ、あんなっ、あんな簡単にッ、あんなエロ画像でっ、出すようなもんじゃ、ないんだよッ!誰かの見せもんじゃない、そんなもんじゃないッ、もっともっと大事なんだ、そんな、そんなっ、軽いもんじゃ、ないんだよ……ッ!そんな、簡単じゃねぇんだってッ!!」 「っ」 たぶん、耕太自身もなに言ってんのかわからないまま、言葉が、ばらばらに吐き出される。なにもかもがはじめての耕太は、俺に焼きついて、焦げついて、離れない。 な……。 なんだよ。 なんなんだよ、耕太。 簡単じゃないって。 見世物じゃないって。 軽くないって。 ……だいじ、だって。 俺、そんなの。 ひとつも。 なんにも。 知らないよ。 「こんな、こんなにッ、ずっとずっとずっと描きたいって思うやつ、ほかに、誰もっ、いないんだよッ、誰もいないっ、はるきっ、晴樹だけ、なんだ、」 わからないのに、とめてくれない。 耕太はひとつも、とめてくれない。 俺が、こんな一瞬じゃなにも拾えなくて、なにも理解できないものを、自分勝手にどんどん、放り投げてくる。 泣きそうな顔で。 もう涙がこぼれそうな顔で。 俺がひとつも知らないことを。 俺がひとつもしらない顔で。 ばかみたいに、たくさん、放り投げてくる。 「だから、だからッ、ずっと、ずっとずっとずっとっ、だいじに、してッ、俺が、もっと、ちゃんと、したらっ、ちゃんと、ほんとにっ、自慢っ、できるくらい、うまく、晴樹のことっ、描けたら……っ、めいっぱい、すきなだけ、自慢しようって、そう、思ってた、のに……っ!」 「こう、た」 俺のこと大事って。 自慢したいくらいって。 ちゃんとしたらって。 描けたら、って。 ……それ、って。 「俺の、せい?俺が、ずっと、晴樹のこと、大事に、しすぎてっ、なんも、言わなかった、から?だから晴樹っ、あんなばかなことっ、あんな、無茶な、ことして……ッ、あんな写真晒して、あげてた、のか?」 がくん、と揺すられる。 もう、完全に泣いた耕太の顔が、俺の視界でゆれている。 それを受け止めきれない。 わかって、あげられない。 答え、られない。 「っごめん、俺っ、俺がっ、絵、ぜんぜんうまくないせいで、晴樹のこと、みんなに、つたえて、やれなくて……ッ、うぅ゛、俺、おれがっ、だめな、せいで……ッ!」 「っ……」 それなのに。 それなのに、ただ必死に、ただ切実に、俺を、俺だけを見て、俺へ謝って、自分をなじって、俺の胸に顔をうずめて、肩を震わせる耕太に、俺も、どうしてかひどく、泣きたくなる。 ここには感情があって、あふれるくらいの耕太の感情があって、それがぜんぶ俺へぶつけられて、それが、その強さが、どうしようもなく、絶え間なく、俺へ、襲いかかる。 俺が知らない、俺が知ろうともしなかった、耕太の努力が、耕太の苦悩が、耕太の、「つくるやつ」としての歯がゆさが、間違いなくここにある。今までの俺じゃどう頑張っても手が届かなかった、そういう、胸を掻きむしるくらいのもどかしさが、そういう、耕太のぜんぶが、いま、ここにある。 それは。 俺が。 俺も。 感じて、いたもの。 俺が。 ようやく、見つけられたもの。 みじめで。むなしくて。でも。 必死で、足掻いて、悩んでいた。 耕太と。 「おなじ」で。「いっしょ」の。 そういう。 ……想い。 「はるき、はるきッ、ごめん、ごめんっ、ごめんな、はるき……ッ!」 「ッ──」 こぼれる、「おなじ」想いでつくられた涙の雫が、注がれて、注がれて、注がれて、それは俺の中の、明確な、「かたち」になる。 耕太の、質問の答えなんかよりもっともっと大切で大事な心の澱が、俺の中にあった曖昧なものを、なによりも確かに、輪郭づけていく。 「ッ──、」 ちがう。ちがうんだ、こうた。 悪いのは、俺のほうだ。 謝らなきゃいけないのも、俺のほうだ。 耕太に、言わなきゃならないことがあるのも、俺のほう、だ。 こうた。 俺。おれは。 おれ。 おれはっ──……、 「ン、っ!」 くちづける。 耕太に、くちびるを、押し付ける。 やっとわかったその「かたち」を、俺も、耕太へと、注ぎ込む。 それは、はじめてする、キスだった。 あんなにエッチばっかしてきたのに。 あんなに毎日エッチだけしてたのに。 これは。 俺が。 耕太とする。 ……はじめての、キスだった。 「こうた……ッ」 ちゅ、と音が立つ。キスって、こんなに気持ちいいんだって思う。ああ、俺、忘れてた。こんな大事なこと、すっかり、忘れてた。ばかだな。そうだ。耕太と出会ってからは、俺、心からそう思う人はできなかった。だからきっと、いつの間にか忘れちゃってたんだ。 「俺、耕太のこと、──すきだ」 すきなひととするキスが。 この世で、いちばん。 きもちいいんだ、って。 「ごめん、耕太。俺っ……耕太のこと、すき、だったんだ」 「っ、はる、き……ッ」 耕太は、呆然と、俺を、見てる。 俺も同じことされたら、同じ反応してる、と思う。 でも、これが今の俺のぜんぶだった。 俺が耕太にぶつけられる、俺のぜんぶだった。 俺の中にはそれしかなかった。 そんな簡単でシンプルなことしかなかった。 耕太がくれた涙と心でやっと浮かび上がった俺の気持ちが、俺のかたちが、結局、俺のぜんぶだった。 それだけ、だった。 「すきだよ、耕太。俺、俺はっ……耕太のこと、ずっと、すき、だったんだ……っ」 「ぁ、ンんッ!」 あふれてきて、とまらない。 一回それを自覚すると、もう、こぼれてきて、とまらない。 すき。すき。すきだよ、こうた。すき。こうた。俺。こうたのこと。すきだったんだ。それなのに。きづかなくて。俺。なんにも。きづけなくて。ごめんね。こうた。いままで。ごめん。すき。すき。すき。すきだよ。だいすきだよ。こうた。 「っ、ぅ」 唇を、離す。 耕太と、目が合う。 たぶん、もう俺も泣いていた。 目が熱くて、鼻がツンとしてたから、泣いてるんだと思った。 耕太のにじんだ瞳に映る俺の顔は、ばかみたいに、情けない。 「俺……っ、裏垢、やってたよ」 もう、俺も、隠せないと思った。 キスをして、すきって、すきってそれだけの俺のぜんぶを伝えて、そこで俺の中のつかえも、ようやく、とれたんだと思った。俺の中でずっと暗く醜く押し込められてたものが、耕太の想いで、やっと、照らされたんだと思った。 「俺は……っ、耕太みたいに、なりたかったんだ」 「……晴樹」 「ばかっ、だよな。そんなので、耕太みたいになれるわけないのに。そんな簡単に、うまくいくわけ、ないのに。でも、俺には、それしかないって、その時は、そう、思っちゃったんだ。まんこついたこの身体なら。俺でも。女神に……なれんのかなって」 才能があって。 努力もしてて。 でも、それを鼻にもかけないで。 そういう耕太に褒められて。 そういう優越感があって。 でも、やっぱり羨ましくて、妬ましくて、たまらなかった。 そんな耕太の隣にいる、なんの取り柄もない俺自身が、いつからか苦しくて、辛くて、きつくて、たまらなくなっていた。 「そうすれば、ちょっとは、耕太に負けない自分になれるかなって。ちょっとは、耕太に対しての劣等感も、消えるかなって。そう、思っちゃったんだ」 それを、俺は、裏垢でどうにかしようとした。 そんなもので、そんなものしかないって俺は思ったから、そんなことでしか、自分を、どうにかできないって。だから、あんな、ことをした。 「でも、裏垢やっても、数字が伸びないとか、反応ないとか、そんなのばっか、気にして。つまんないことで、毎日、落ち込んで。むなしくなって。みじめになって。結局、その前より、自分がなんにもないんだって、知っただけだった」 俺はばかだった。 大切なものになにも気づかないまま。 なにも目を向けないまま。 ばかなことに手を出して、自分自身に、打ちのめされた。 「……でも、そこで、やっと、気づいた。耕太が、どんなにすごいやつなのかって……そこで俺、やっと、気づけたんだ」 でも。 でも、俺がばかだと知ってて踏み出した一歩が、自分からなにかをしようとして必死に踏み出した一歩が、俺に、『土本耕太』って存在のすごさを知らしめた。 それは事実だ。 それは本当。 それは俺が手に入れた、かけがえのない発見だった。 「耕太は、すごいやつだった。俺が思ってたよりずっとずっと、頑張ってて、努力してる、すごい……やつだった。だからそれまで、なにも知らなかった自分が、恥ずかしくなった。俺は、こんなすごいやつの隣で、生意気なことばっか言ってたんだって」 少しだけ、俯く。 けれど、顔を上げて、耕太を見る。 「だからっ……今までごめん、耕太」 上ずった声が震えて、塩辛い味が口に広がる。 俺、いま、ダサい顔、してるかな。 してる気がする。 耕太が、泣きはらした。 でも、すごくやさしい顔で俺を、見てるから。 「……生意気なんて、思うかよ。晴樹は、晴樹のままでいいんだ。俺にとっては、それが一番、大事なんだよ」 「……うん」 そうだ。そう。そうなんだ。 耕太の、言う、通りなんだ。 「俺、さ。裏垢で、DMもらって。それ、俺と同じように、裏垢やってる人からのDM、だったんだ。そのDMもらって、俺も……その人と同じなんだって、思った。俺が、その人と同じ場所で、同じ気持ちでいたから……その人は……DMをくれたんだって」 だから、伝える。 俺がようやく気づいた発見のもうひとつを、伝える。 うまくできるかはわからないけど。 ちゃんと伝わるかはわからないけど。 でも、耕太は、ちゃんと俺を見て、問い掛けてくれる。 「……励まされた?」 「……わかんない。でも、誰かと「同じ」だって思ったのが、俺、はじめてだったんだ。誰かと同じ場所で、同じ気持ちになったって、そういう風に、思えたのが」 その共感があった。 その、等しい場所にいる共感を、俺は知った。 そのもうひとつの発見が、俺に、教えてくれた。 「それはさ」 俺は。 俺でも。 俺、なんかでも。 「……それは、耕太とも、「同じ気持ち」──だったんだ」 耕太と、「共感」、できるんだって。 「俺にとって、少しでも、ちょっとでも……耕太と同じとこにいられて、同じ気持ちに、なれる。それって、俺の中で、すごく大事なことだった。すごく……自分を許せる、ことだったんだ」 「許せる?」 「うん。そう思える時は、俺も、耕太と対等になれるのかなって、思えたから」 そうだ。 その意識は、俺にとって、自分を許せるものだった。 そして、俺自身を、認められるものだった。 だから、その意識こそが、俺に、浮かび上がらせたんだ。 「そう思うと──俺のいちばん欲しかったものも、わかった気がしたんだ」 俺の願いを。 欲望を。 そして、望みを。 「俺は。耕太に。……認めて、ほしかったんだ」 そうだった。 耕太に、俺を、認めてほしい。 結局、ただ、それだけだった。 「耕太は、高校ん時、俺を、選んでくれた。俺を描きたい、って……こんなにいっぱいいる人の中から……俺を、選んでくれただろ?」 そうだ、俺にとっての耕太は、一番身近な神様だった。 誰でもない、なにものでもない、そのままの、ただの、そういう、『天中晴樹』を「選んで」くれた、俺だけの神様だった。 「だから、そういう耕太に、俺は、選ばれた「とくべつ」なんだって──ずっと、認めてほしかったんだ」 認めてほしかった。 それがずっと、俺の中の「モヤモヤ」だった。 でも俺はそれに気づかないまま裏垢を始めて、曖昧な「なにか」や「誰か」でそんな気持ちを消そうと思った。 だってそれで満たされると思ったから。 それだけで、満足できると思ったから。 「なにか」や「誰か」にちやほやされれば、俺のそんな欲求も満たされるはずだって、そう、思ってたから。 でも違った。 俺が認められたいのは、「なにか」にじゃなかった。 そんな曖昧な、不確かな、不特定多数の「誰か」なんかじゃ、なかった。 誰でもない。 『土本耕太』、だったんだ。 「俺はっ、ずっと……っ、耕太に。耕太のいちばんで、とくべつだって、思われたかったんだ」 耕太は、俺にとっての神様だった。 だから、俺は女神になろうとしたんだ。 神様が相手なら、女神にでもならなきゃ……認めてもらえないと、思ったから。 「俺は。耕太のことが。好きだった、から……っ」 でもそれは、ただシンプルに、耕太が、好きだったからだ。 ただ単純に耕太が好きで、だから耕太にも、俺と同じように、想ってほしかったからだ。 耕太が好きだから、耕太が俺を見てくれることがうれしかったから、だから耕太に、俺がちゃんと耕太にとって必要なやつだって、認めてほしかったんだ。 「耕太のとくべつになりたかったんだ。ずっと。耕太は俺なんかよりずっとすごいって、わかってる、けど……でも俺だって、ずっと耕太の隣にいた。耕太にずっと、描かれてきた。それはもう、耕太にとっても、耕太の絵にとっても切り離せないものだって、俺は、思ってる」 「晴樹……」 「だからそれ、耕太に知ってほしかった。わかって、ほしかった。でも、耕太はずっと、俺のこと、隠してただろ?それがずっと……俺は嫌で。だからずっと、気に食わなかった」 嫌だった。気に食わなかった。 それは、間違いがない。 でもそれは、俺が耕太の気持ちを知らなかったからだ。 もちろん耕太が、それを教えてくれなかったのが原因だけど。 ……でも、もう、俺も知った。 耕太は教えてくれようとして教えてくれたわけじゃないけど、俺ももう、それを知ってしまった。俺自身でさえ無自覚に、耕太のこころをかき混ぜて。耕太の中身を、暴いてしまった。 「おしえてよ」 それなら。 ……それなら、もう、いいだろ? もう、耕太だって、ぜんぶ、見せた。 もう、おれだって、ぜんぶ、見せた。 それなら、ほしいよ、耕太。 「耕太が悪いって思うなら。謝る、なら」 俺は。 「それなら、かわりに」 耕太の。 「……ちゃんと、教えて」 ──『こたえ』が、ほしい。 「耕太」 いままで、何度もこの名前を呼んできた。 高校に入学して、耕太から声を掛けられた時から今までの4年間、たぶん、一番、この名前を呼んだんじゃないかって思う。 でも、そのどんな呼び方よりも、このたった一回が、俺のことを押し上げる。 この、この名前が、もう次の瞬間から、自分の中でまったくの別物に切り替わるって確信が、この、たった一回の呼び名を、どうしようもなく。 「俺っ……耕太の……とくべつ?」 ──「とくべつ」に、する。 「っ……」 耕太が息を呑む。 その音が、聞こえる。 実家の玄関先で。 男同士で。 なんにも色気のないシチュエーションで。 こういうのって、なんか、もっと、ドラマチックなんじゃないかなって思ったけど。 でも、ぜんぜん、そんなことなくて。 ああ、だから、これが「現実」なんだって思い知って。 でも。 「……とくべつ、だよ」 ドラマチックじゃなくても。 なんにも色気がなくっても。 太陽の光もなにもない。 こんな暗い玄関先で。 それでも。 まっすぐに俺を見る耕太が。 驚くぐらい、驚くぐらいに、キラキラしてて。 ああ、これも、「現実」なんだって、俺は、どうしようもなく、思い知る。 「かわりなんかいない。お前が。晴樹が。俺の、いちばんの、とくべつ」 「っ……」 ああ。ここが。現実。 俺の生きてる、現実。 耕太がいて。 俺が、いる。 「俺も、好きだ。晴樹」 「っ……!」 どうしようもない。 どうしようも、ないまま。 『同じ想いでいる』。 俺達が生きてる、現実。 「こ、こうた……っ!」 声が震える。 上ずって、跳ねる。 もう、「ちがう」って、わかる。 「晴樹……ッ、」 「ぁ、ンっ!♡」 その、もう、今までとは違う、まったく違う、そういう呼び名は、あっという間に塞がれる。耕太の唇で。二度目にふれる、耕太だけの唇で、一瞬にしてふさがれる。 「ぁ、んんっ♡ん、ぅっ♡」 「ふ、ぅっ♡ん、んんっ♡」 吐息が混じる。 感触が雑じる。 感情が交じる。 「ッ、」 こんなキス知らない。はじめてだ。しらない。こんなの。すごい。……すごい。夢中で唇を啄めば、薄くひらいた目に耕太の視線が絡んで、嬉しそうにきゅうっと細くなる。 「ぁ、んんッ!♡」 それが合図になったみたいに、ぎゅうっと引き寄せられて抱きしめられた。今度は目じゃなくて口がひらいて、舌が入り込んで、中の奥で絡み合う。はじめての耕太の唾液は、口の中は、あまくて、エッチで、言葉にならなかった。その味を感じるだけで、全身がうずいて、うずいて、仕方なくなった。 「ふぁ、あっ♡こ、こぉた♡ンっ♡したいっ♡エッチ、したいっ♡」 「っしよッ♡はる、きっ♡セックスっ♡ハメんの、しよッ♡」 「ん♡んっ♡する♡する、っ♡」 したい、したい、エッチしたい、いますぐ耕太とエッチしたい、って思いながら、はふはふキスを繰り返して、そこでようやく玄関先じゃエッチはできないって気づいて、どたどた階段を上って、俺の部屋の中へ入る。 「ぁ、すげ、はるきの、部屋だっ♡」 「ぅあ♡こ、こぉたッ♡ン、んぅ♡んうっ♡」 ああ、そうだ、ここっ♡俺の、部屋だっ♡ずっと高校んとき、こーたと、いっしょに、いた部屋でっ♡俺たち、エッチ、するんだっ♡ぅ♡耕太と、エッチっ♡エッチ、できるっ♡やっと、耕太とっ♡すきってわかった、耕太とっ♡エッチ、できる……ッ♡ って思えば、トン、とベッドの縁に脚が当たる。のと同時に、ドクン、と身体が鳴って、俺は思わず、唇を離してしまう。もったいなかった。こんなに気持ちいいキスしてたのに。離してからそう思った。でも、しょうがなかった。だって。 「っこ、こぉたッ!」 「ぅぁ、……っ?はるき?」 「お、俺っ、も、戻ってる!」 「は……?ぅ、うおっ!」 まだ、どっか惚けたままの耕太へ向かって、俺はがばっとスウェットを下ろす。仰け反るように耕太が驚いて、でも、その視線も、俺の視線も、すぐに、俺の股間へ向かう。 「あッ」 「や、やっぱりっ!俺っ……男にッ、戻ってる!!」 俺達が同時に目撃したのは──俺のちんこ。 いつの間にか、まんこからちんこに戻ってた、俺の、股間──だった。 「えっ。あっ。ま、マジだっ」 さっきまでの甘々エッチモードから一転。 耕太が素直に、うろたえる。 「ど、どうッ、しよ。お、俺っ、戻っ、ちゃった」 そして俺も、素直に、うろたえる。 だって耕太とは、まんこでしかエッチしてなかったからだ。いや、まんこ以外、俺は俺のままだったけど、でも耕太だって、俺の股間がまんこだったからエッチしたわけで、だからえっと、今更、男に戻ったって、戻っても?えっ、え、これっ、戻ったってことは、えっ……??? 「いい、」 「へっ?」 「晴樹が男でも、女でも、どっちでもいい」 「へ、っ?」 「ヤる。俺は、カントの晴樹とヤりたいんじゃなくて、晴樹と、ヤりたいんだから」 「っえ、耕太……っ、んぁッ!♡」 やけに覚悟キマった感じでイケメンなこと言う耕太に呆ければ、どすん、とベッドに押し倒される。なに、なん、どうなった、と上を見上げれば、俺に馬乗りになった、耕太がいる。 「ローションあるから。ケツ、いじっていい?つかお前、受けでいい?」 「う、うけ、って」 「ちんぽ挿れられるほう。晴樹、どっちがいい?選んで?」 「ッ──、」 いろいろ、矢継ぎ早に、尋ねられて、混乱、する。け、ケツいじるって、い、いれられるほう、って。あ、そっか、俺、もう、ちんこ戻ったから、挿れられる、のか。え、えっ、でも、挿れるって、それちんこ、耕太に、挿れるって。つかローションあるって、なっ、それっ、わざわざここまで持ってきたの?いや、でも、それはともかく、ぇ、選べるって、どっちか、選ぶって、俺、俺が、選ぶって、そんなの、えっ、そんなの、そん、なの……っ。 「そ、そんなのッ、ぃ、いまさら、じゃん……ッ!♡」 そ、そうだ、いまさら。 そんなの、ぜんぶ、いまさらだ。 だって、だってっ、だって……ッ♡ 「ぉ、俺っ♡もぉっ♡耕太のちんこッ♡忘れらんない、よぉッ♡挿れられるのしか、考え、らんない……ッ♡」 きっと、たぶん、俺、いま、今世紀最大に媚びてんだろ、って自分でもわかる、いや、でも、まじ天然でやってた、そういう、めちゃくちゃアレな俺で耕太を見上げると、耕太は、ぶわっと、ぶわわっと、顔を、紅くする。 「っ──は、はるきっ、えろ……ッ♡」 「ぅ゛……ッ♡」 それは、まんこがくっついてる俺とエッチしてた時となんにも変わらない耕太の表情で、俺にめちゃくちゃ興奮してた時となんも変わらない耕太の表情で、だから、俺は、そこで、耕太は本気で、まんこくっついた俺じゃなくて、ただの『俺』とエッチしたんだって、理解、した。いま耕太が、本気で、ただの『俺』に興奮してるんだって、そのことを、理解、した。 「ッぅ゛──!♡」 それを実感すると、一気に、恥ずかしさと、嬉しさと、ムラムラが、さっきの倍で、襲ってきた。耕太、ほんとに、マジで、俺のことすきで、すきだから興奮してて、すきだから興奮しててエッチしたんだっていうのがわかって、ほんとに、マジで、ぐわわわわって、一気に、すごいのが、もう、それだけでイっちゃいそうなのが、キた。 「ぅ、うっさいッ♡こ、こぉたがッ♡聞く、からじゃんッ♡」 まだまんこついてたら絶対どっろどろのぐっちょぐちょになってた、と思いながら、そっぽ向いて耕太をなじれば、むしろそれにもっと興奮するように、ごり、と勃起したのを、耕太は俺に押しつけてくる。 「っじゃあ、ヤるッ♡するッ♡俺が、はるきに、挿れるッ♡」 「ぁ、んぅ゛ッ!♡こ、こぉたッ♡」 こ、これ、しちゃうっ♡まじで、しちゃうっ♡男同士のまんま、でっ♡エッチ、しちゃうよっ♡うぁ♡あっ♡か、考えて、なかったっ♡こ♡耕太と、男のまんまで、エッチすんのなんかっ♡ぜんぜん、俺ッ、考えて、なかったッ♡ ど、どうしよっ♡なんか、すげ、恥ずかしい、よっ♡べ、べつにっ♡まんこ以外、いつもと、同じ、ままなのにっ♡ずっと、そういう俺でっ、耕太と、エッチ、してきた、のにっ♡勃ったちんこ見られんのもっ♡男のまんまエッチすんのもっ♡すっげぇ、はずかしい、よぉ……ッ!♡♡♡ 「はるきッ♡はる、きッ♡ぅあ♡やばっ♡えろっ♡えろ……ッ♡」 「あ♡ぁッ♡」 ぅぁ♡で♡でもっ♡耕太っ♡耕太すげぇちんこ勃ってるッ♡俺のちんこガン見してっ♡すっげちんこ勃たせてっ♡フーフー息、吐いてるっ♡ぉ、おれにっ♡すげえっ♡コーフン、してるッ♡ ぅぁ♡ほしいっ♡耕太のちんこ、ほしいっ♡まんこないのにっ♡もぉまんこないのにっ♡きゅんきゅん、するっ♡腹のおくっ♡きゅんきゅんすんの、とまんないっ♡耕太のっ♡こうたの、挿れたいっ♡ナカ挿れてっ♡おくッ♡ゴンゴン、して、ほしいっ♡ 「こ、こぉたっ♡ん、ぅ♡こぉたッ♡挿れてッ♡ん♡ち、ちんこ、ほしいっ♡ん♡んっ♡こぉたの、欲しいッ♡んぅ♡こぉたぁッ♡」 首に手を回して引き寄せて、何度もキスしながら必死にねだれば、耕太は俺に応えながら、ちんこにローションをぶちまける。 「っン♡ぁ♡ぉっ、男だと、濡れね、からッ♡ぃ、いけっ、かなっ♡ろ、ローションっ♡まぶせば、ッ♡」 「ぁ、う゛ッ♡ぅう゛ッ♡」 ぐっ、と足を持ち上げて、ぎこちなく耕太は俺のケツにちんこを宛てがう。ぐにゅ、と穴に亀頭の感覚がひびいて、ゾワッと背中から、これまでとは違う悪寒が這い上がる。 「ひッ♡ぁッ、ケツっ♡ぅ゛ッ♡あぅ゛ッ♡」 それは期待と、恐怖と、快感が、ぜんぶ混じり合ったような感覚だった。久々に耕太とできるエッチで、でもケツに挿れるのなんかはじめてで、でもそれは耕太のちんこで、それを挿れたくて、挿れてほしくて、たまんなくて、そういうのが、ぜんぶ、ぐちゃぐちゃに入り混じって、とまんなくて、わけ、わかんなくなってた。 「ぅ゛♡はるきッ♡はる、きッ♡」 「ぁ♡あっ♡うぁ゛♡」 挿れたがってる耕太の顔も、挿入ってかないちんこも、でも、やたら気持ちいい、うれしい、きもちいいよって叫んでるカラダとココロも、もどかしくて、せつなくって、こんなの今までのエッチじゃ感じたことなくって、だから、もう、なんだか、それだけで、俺はだめだって、そう思う。 「ぁ、やば、こぉたッ、ぉ、おれだめっ♡これっ♡だめっ♡だめだよぉッ♡」 「ぅ、ぅあ゛ッ♡は、はるきッ♡」 「こ、こぉたッ♡ひ、ぅ゛ッ♡ごめっ♡ぅぁ゛♡いくっ♡いくよぉっ♡ぅ、あ♡ぁッ♡あぁ゛ぁ……ッ!♡」 ごめん、ごめん、って言いながら、ごめん、ごめん、って思いながら、俺は、耐えきれなくて、射精する。 それは俺が耕太とのエッチでするはじめての射精で、それは男同士でするエッチがはじめてだったから当然だけど、いや、挿入ってないからエッチにさえなってなかったかもしれないけど、でも、それが、俺が耕太に見せる、はじめての、なさけない、射精、だった。 「ぁ゛ッ♡うぁ゛ッ♡ゃ♡ぃ、やだっ♡とま、んなッ♡しゃせっ♡とまん、なぁッ♡」 射精はとまらない。まるで耕太へ見せつけるみたいに、俺のちんこはいっこも治まることなく、びゅくびゅくザーメンを吐き続ける。 ぁ♡な、なんでっ♡ぜんぜんっ♡しゃせぇッ♡とまんない、よぉッ♡ずっとでてるッ♡ずっと射精っ♡こぉたにっ♡みられ、てるッ♡ 「こ、こぉたッ♡みないでッ♡や、やだっ♡ひぅ゛♡しゃせぇッ♡みんの、やだぁっ♡」 「っ、はるきっ、かわいぃ……ッ♡♡♡」 「っン!♡」 やなのに、耕太は、俺にキスをして、耕太も、とまんないって言うように、ガシガシ腰を振り続ける。カウパーでどろどろんなった耕太のちんこが、アナルの表面をすべって、ぬりゅぬりゅ俺のちんこを、こすり上げる。 「はるきッ♡かわいっ♡かわいいッ♡んぅ♡かわいいよぉ、はるきぃっ♡」 「ひぅ゛ッ♡んぅ゛ッ♡ン♡んんぅ゛っ♡」 イったばっかりのちんこが耕太のちんこで刺激されて、キスをされたまま、ふるえながら俺は口の中で喘ぐ。ぅ゛あ♡きもち、いいっ♡ちんこっ♡こすれんのっ、きもち、いいっ♡耕太のちんこ感じるのっ♡耕太のこと感じるのっ♡こぉたのぜんぶ感じながら、ちゅー、するのッ♡きもちいい♡きもち、いッ♡きもち、いい、よぉ……ッ!♡♡♡ 「ぅあ゛♡ぉ゛ッ♡んぐッ♡んッ、ぐぅぅ゛……ッ!♡」 「ッ♡ん゛ッ♡ぅあッ♡ふ、ぅう゛……ッ!♡」 そのまま、耕太は、挿れないで、射精、した。 俺も、その射精を追うように、もう一回、射精、した。 ま、またっ♡また、でたッ♡また、しゃせぇ、した……ッ♡ ふぁッ♡ぁあッ♡うぁ……ッ♡♡♡ 「ぁ、うぁ゛♡ふあ、ぁッ……♡」 「ぅ゛ッ♡は、るき……っ♡」 「あっ、こ、こぉた……っ、ん、んん……っ♡」 まんこでイった快感よりずっと短い余韻に、それでもなんとか息を逃していると、俺を覗き込んだ耕太が、とろけるような顔をしてキスをする。 「ン♡んっ♡ん、ぅ……ッ♡」 ちゅく、ちゅく、とゆっくり入ってきてナカをくすぐる舌は、まるでちんこの代わりだって言ってるみたいだった。ちんこの代わりに、口と舌でエッチしようって言ってるみたいだった。だから俺は耕太の首に手を回して引き寄せて、ぴったり耕太に密着しながら、その舌を、深くふかく、絡め合う。 ぁ、すき……ッ♡すき、っ♡すきっ♡こぉたっ♡すき♡すき、だよぉッ♡こぉたとちゅーするのっ♡きもちいいっ♡すきっ♡こぉたッ♡すき♡すきぃっ♡もっとっ♡もっとほしいよっ♡こーたっ♡こぉたぁッ♡もっとおれっ♡ほしい、よぉっ♡ 「ぁ、ぅぁッ♡こ、こぉたッ♡」 すきだから、尋ねたい。 すきだから、求めたい。 そんな気持ちが、俺の背を押す。 離したくちびるに、俺は耕太へそう、問い掛ける。 「俺、こぉたのッ?♡俺っ……♡こぉただけの、おれ……っ?♡」 耕太はそう、言ってくれた。 俺だけのだろ?って。 そう、俺に、訊いてくれた。 それならいまもほしい。耕太が、俺を、そう想ってる言葉がほしい。もっときゅんきゅんしたい。もっと耕太をすきだって思いたい。だいすき。だいすきだから。だいすきだってやっと、わかったから。だからほしい。耕太の。俺を。とくべつに想うことばが、ほしい。 「こぉたっ♡俺のこと、だいじなんだよねッ?俺のこと、ずっと描いてたいんだよねっ?こぉたッ♡ずっと俺のことっ♡そう、おもって、くれてたんだよねっ?♡」 「ぁ、う、ぅう゛ッ♡」 俺がそう尋ねると、耕太は、顔をまっかにする。あ、かわいいっ♡こぉた、かわいいッ♡恥ずかしがってるんだっ♡かわいいっ♡こぉたっ♡かわいい、よぉっ♡ 「こぉたッ♡おしえてッ♡ン♡ききたいっ♡こぉたのクチからっ♡もっかい、聞きたいっ♡んぅっ♡俺のこと、じまん、したいっ?♡じぶんのだってっ♡俺がっ♡こぉただけのはるきだってっ♡じまん、したいっ?♡ねっ♡こーたっ♡こぉたっ♡ん♡ぅ♡おしえてっ♡おしえて、よぉッ♡」 ちゅ、ちゅ、ちゅ、と何度もキスをしておねだりする。しりたい、しりたいよ、おしえて、って、恥ずかしがる耕太に何度も、俺は、おねだりする。こぉたっ♡いじわる、しないでっ♡ね?ねっ?♡こぉたっ♡言ってよっ♡おれのことっ♡こぉただけの俺だってっ♡いってよっ♡いって、よぉ……ッ♡♡♡ 「こぉた……ッ♡ん、ぅ……ッ♡♡♡」 だから、ね、おねがい、おねがい、っていちばん、いちばん深いキスをすると、そこで、ようやく、ようやく恥ずかしさが限界を超えたように、耕太は、うるうるした目で俺を見る。かわいいのに、すんごくかわいいのに、でも、さっきみたいにイケメンな、やたらかっこいい耕太で、口をひらく。 「ぅ゛……ッ♡そ、そうだよッ♡はるきッ♡はるきはッ♡俺だけの、だからッ♡俺がみつけたっ♡俺だけの、とくべつ、なんだからッ♡おれだけのッ♡俺だけの、だよッ♡」 「あ♡うぁ♡こ、こぉたッ♡んっ、ンぅッ!♡」 どすん、と心のまんなかに来る言葉に、くちびるが、重なる。がまん、できなくなったみたいに、今度は耕太から、何度も、くちびるを、押しつけられる。 「んっ♡んぅ♡はるきっ♡はる、きッ♡ぜっ♡ぜったいッ♡他のやつなんかに、渡さねえ、からっ♡おれっ♡おれがっ、ぜったいッ♡はるきのことッ♡ちゃんとっ♡いちばんっ♡しあわせに、する、からッ♡」 「ふぁ♡ぁ、んッ♡こぉ、た♡ぅぁ♡こぉたッ♡」 「おれっ♡おれがッ♡いままで、なんにも、できなかったぶんッ♡心配っ♡させたっ、ぶんっ♡はるきのことっ♡いっぱいいっぱいッ♡せきにん、もってッ♡しあわせに、するからっ♡だからっ♡はるきッ♡だからいっしょに、いてッ♡おれとっ♡ずっとっ♡いっしょに、いてよっ♡はるきぃ……っ!♡♡♡」 「ンぅッ♡ふ、ぅ♡んん……ッ!♡」 その言葉に、その必死な言葉だけで、その必死なキスだけで、なんか、もう、イきそうになる。そしておなじくらい、泣きそうになる。耕太の気持ちが、想いが、やっぱりぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶ注がれて、おれ、もう、ほんとに、耕太で、ぜんぶ耕太で、いっぱいになっちゃう、と、思う。 いるよ。いる。いるから。 ぜったい。耕太と。いるから。 しあわせにしてもらう。 せきにん、とってもらう。 耕太に。 だれでもない、耕太に。 いっぱい、いっぱい、せきにん、もって、しあわせにしてもらう。 耕太のだから。 俺。 こうたの、だから。 だから。 だから。 ずっと、ずっといっしょにいて、しあわせにして、もらうから……ッ!♡ 「こ、ぉたッ♡いよッ♡いっしょに、いよッ♡なるっ♡こぉたと、しあわせに、なるっ♡ふぁ♡ぅあ♡ん、んく……っ!♡♡♡」 そして、俺は、ほんとに、キスをしたまま、耕太に、あふれちゃうくらいの愛情を、注がれたまま、イって、しまった。 「ぅあ゛ッ♡ひ、ぅ゛ッ♡ふぁ、あぁ……ッ♡」 じぶんでも、わけわかんなくて、でも、きもちよくてしあわせなのが、全身に広がってて、あぁ、おれ、ほんとに、いま、ぜんぶ、ぜんぶ、なにもかも、耕太のものだ、って思った。おれ、いま、ほんとに、耕太だけのおれになっちゃってるんだ、って、おもった。 「ぁッ♡は、はるき……ッ♡いまイった?♡もしかしてっ、イったっ?♡」 「うぁ♡こっ♡こぉたッ♡」 「か、かわいい……ッ♡かわい……ッ♡イってるっ♡アクメしてる、はるきッ♡かわいいッ♡かわいいッ♡ほんとに、かわいいッ♡みしてッ♡もっと見してッ♡はるきっ♡俺だけのはるきッ♡見してよぉっ♡かわいいッ♡かわいいよぉッ、はるきぃっ♡♡♡」 「ぁ♡あッ♡」 ぅ゛♡こぉた、またっ♡またっ、俺の顔つかまえてっ♡うれしそうにっ♡たのしそうに、みてるッ♡こ、これっ♡かかれちゃうッ♡またっ♡こぉたにかかれちゃうッ♡は、はずかしいっ♡はずかしいっ♡すきなこぉたにぜんぶ見られるのっ♡はずっ♡はずかしいっ♡♡♡ 「ゃ、やだぁッ♡ばかぁっ♡そ、そんなっ、まじまじっ♡みるな、よぉっ♡」 「みるよっ♡俺だけのだもんっ♡俺だけの、はるきだもんっ♡俺だけしかしらないっ、はるきのっ、顔だもん……ッ!♡」 「あっ♡こぉたッ♡こぉ……ンっ!♡」 そこで、また、キスを、されて。 もう、キスは、とまら、なくて。 「はるきっ♡んぅッ♡はるきッ♡ん♡はるきぃッ♡」 「ふぁ、ンっ!♡んぅッ♡こ、こぉたっ♡ん♡んぅ♡ん、ぅ゛ッ♡」 「ん♡んっ♡んぅッ♡」 くっついて、啄んで、舌先をこすり合わせて、与え合って、むさぼって、言葉じゃなくて視線で、すきだ、すき、すきだよ、だいすき、って、つたえ合う。唾液を混じり合わせて、吐息を重ね合わせて、きもちいい、きもちい、すきだよ、すきって、何度でも、たまらない、キスをする。 それは、もう、エッチ以上の、キス。 エッチができなかった俺達をそれ以上のきもちよさへ放り込む、この世でいちばんの、さいこうの、キス。 だから、もう、とまるわけがなかった。 ぴったりくっついて、ぎゅって抱き合って、見つめ合って、お互いの名前を呼びながら、俺達は、ずっと、キスをした。 ずっと、ずっと、キスをして、それで、そのままで、それで、それで──。 「ん、ぅ……ッ♡」 「ふ、ぅ……ッ♡」 それで、今日の、ところは。 ……終わりに。 なって、しまった。 「んぁ……♡いいの……?こーた、挿れ、ないで……」 「んー……今日は、いいや……はるきと、このまま、いちゃいちゃ、すっから……♡」 「ぁ、んっ♡ぁ、こぉた……っ♡」 手をつないで、狭いベッドで、甘えるようにちゅ、ちゅ、とキスをしてくる耕太に、俺は、くすぐったく声を上げる。 やっぱ男同士のエッチは、ぶっつけ本番じゃうまく、いかなくて。だから、また今度、ちゃんとばっちり準備してから、やろう、って……そういう話に、なって。 「俺、はるきが、腸内洗浄してっとこ、見てーな……♡」 「は、はぁッ!?♡ば、ばかっ♡そんなんっ、見せるわけ、ないだろッ!?♡」 「えー……♡いいじゃん……♡出してっとこ描かしてよー……♡描きてぇ……♡」 「か、描かせるわけッ、ないだろッ!?♡こ、こぉたッ、俺関わると性癖ガバすぎッ!♡」 「だって、はるきクン、すっげー、顔いいもん……♡」 「ッ♡」 鼻をくっつけるくらい顔を近づけて、まるで殺し文句みたいに俺の顔を褒めてくる耕太に、もう、何度もその言葉を聞いてきたはずなのに、まるではじめて言われたみたいにカッと顔面が熱くなる。 「っば、ばかっ……!♡そんなん、言われ、たってっ♡ぜってー、見せねぇっ、から……ッ♡」 相変わらず、まじで、耕太はあほだ。あほで、ばかな、キモオタだ。 でもそういうこと平気で言う耕太は、やっぱ、耕太のままで。 そして俺も、もう完全に、俺っていう、天中晴樹の、ままで。 ああ、俺達。 もう、男同士のまんまで。 ……ほんとに、すき同士になっちゃったんだなぁって、思う。 「なー、はるき?」 「な、なんだよッ。っま、まだなんか、ばかなこと、言う気……っ!?♡」 「んーん、ちがう」 「っ……?ぁ、」 舌ったらずな声で、耕太の方を向かされる。 視線がぶつかって、濡れた瞳に、俺が映る。 「晴樹は、ずっと、俺のミューズだったよ」 「え……?」 みゅーず……。 みゅー、ず……。 「μ's……?……?えと……ラブライブ……?」 「いや、そっちじゃねえって。女神、のほう」 「女神、って……いや、俺もう、ちゃんと裏垢やめるよ?」 「いや、そっちじゃねえって。アーティストがさ、使うやつ。一緒にいると、インスピが湧いてくる、相手のこと」 「インスピ……」 「そう。そういう相手のこと、ミューズって言うんだよ。ギリシャ神話の、文芸の、女神にちなんで」 「……。」 ミューズ。 ギリシャ神話の。文芸の。女神。 「だから晴樹は、最初っから、俺の女神だったってこと」 「……」 そうはにかむ耕太も見ても、なんか、あんまり、ピンと来ない。 だって、俺……。 「でも、俺もう、男……なのに?」 「うん」 「まんこ……ないのに?」 「うん」 俺の疑問へうん、うん、とひとつずつ頷く耕太に、そうなのか、と思う。そうなんだ、って、ゆっくり、ゆっくり、耕太の言葉が浸透していく。このフワフワした感覚が、ちゃんと「実感」になって、俺の中まで定着するのは、もう少し時間がかかりそうだけど。でも。だけど……。 「……。そっか」 いまは、ちゃんと、耕太の言葉を肯定したくて、こくん、と俺が頷けば、うれしそうに、うれしそうに、耕太はわらって。 「そうだよ」 だから、ずっと、離さねーから。 そう、やけに甘ずっぱく囁いて、俺にやわらかい、キスをした。 「ん、っ。ん、んっ……♡」 それは、なんだか、ほんとうに俺を女神だって認める、そういう「とくべつ」だって認める、キスだった。この世にたったひとりしかいない、土本耕太って絵描きから贈られた、まるでうそみたいで、でもほんとうな、空想をまるごと描き上げた絵みたいな、やっぱり、最高な、最高な、キスだった。
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