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「こーたぁ」 「ん~?」 「俺、こーたの、とくべつだよな?」 「うん。とくべつ」 「……。」 耕太と好きって告白し合って。男同士のカラダで触りあって。この前、ちゃんと、エッチもして。(洗浄は死んでも見せなかった。……今回は)そんで、たぶん、「付き合う」って、「彼氏」って、「恋人」って関係に……なって。 それでも俺達は相変わらず、描いて描かれる関係を続けている。それは耕太が相変わらず俺の顔を好きで、描かずにはいられない、って思ってるからだ。俺達が一緒にいるようになったその根っこは今も最初と同じで、変わらないまま継続、している。 だから正直、「付き合ってる」とか、「彼氏」とか、「恋人」って実感は、相当薄い。なんだか結局一番はじめに、戻ってきたような気もするから。ついでに「女神」の実感もあんまりないし、こうやって「とくべつ」って耕太から聞いても、前より有り難みがなくて……そういう自分に、なんだかなぁ、と思う。『雨』のことと言い、本当、慣れって厄介だ。いや……耕太と家でイチャイチャしたり、そのままエッチに突入して、とろんとろんにラブラブすんのは、嫌いじゃない、けどさ。ちゅーしながらするエッチ、マジでやばいし。まんこある時にやっとけばよかったって思うくらい。 あ、そういえば、身体はすっかり元通りだ。まんこが戻るような感覚もない。まんこのエッチ最高だったから、俺達的にはまたなってもいいかなとは思うんだけど……スーパー銭湯とか行けないし、トイレも個室入んなきゃいけないし、まぁ、戻れないのもプラマイゼロかなって感じだ。 なんかうまいこと今日はちんこ、今日はまんこ、って切り替えできればいいのにな。たまにポルチオエッチのことを思い出して、すっごいムラムラするし……あと、一回はゴムなしの生ハメエッチも、してみたかったし(でも、前立腺キュウキュウされるエッチも相当いいから、やっぱプラマイゼロかもしれない)。 なんで俺の身体が「カントボーイ」になったのか、今も理由や原因はわからないままだ。強いて言うなら、俺が耕太を拗らせてたのが原因?そんな魔法とか呪いみたいな、それこそ2次元みたいなことあるかって話だけど。でも俺の股間がまんこになったのは事実だし、耕太だって証人だから……そういうことにしておこうと思ってる。 そして『雨』のアカウントも、そうしようと決めてた通り、動かすのを止めた。投稿は「更新は終わりにします」って告知以外画像含め全部消して、アカウントは非公開にして、それ以降放置してる。 それはもちろん耕太がブチギレたのもあるけど、結局裏垢は俺が「やりたいこと」じゃなかったからだ。嫉妬とか焦燥にかられて、それしか手段がないんだって思い込んだ俺がやった、ただの無茶。それは俺にとって恥ずかしいことだったから、すっぱり辞めた。だからもう、『雨』はどこにもいない。……強いて言うなら、耕太だけのものだ。耕太にだけはエッチな俺を、描かせることを許してるから(ついでに『雨』用に買ったエッチな下着も、耕太とたまに使ってる)。 上げた写真はそこまで拡散されてたわけじゃないけど、ネットの世界だからどうなってるかはわからない。それは俺の責任だから、逃げる気はない。やっぱりばかなことをしたのは、わかってる。 でも、不幸中の幸いで俺が上げてた写真はずっと下半身だけだったし、俺の身体はもう完全に男に戻った。だから「ついてない」あの身体とはすぐにイコールで繋がらないだろうって、なんとなく、信じたい気持ちだ。 アカウントを放置してるだけで消してない理由? それは俺にDMをくれた人と、いまだに連絡をとってるから。 あの人がいたから、俺は「同じ想い」ってものに気づくことができた。だから、とお礼の返事をしたらそのままずっとやり取りが続いて、今は日常含めいろんなことを話している。今度、ついにその人がやってる本垢の裏垢?を教えてもらえる予定だ。 閑話休題。 『雨』を辞めて、俺は自分のやりたいことをやりたい、と思うようになった。そう思えることをやるのが一番、楽しくて気持ちがいいってわかったからだ。 まだ探り探りだけど、強いて言うなら、耕太みたいなやつの手助けがしたい。頑張ってなにかを「つくる」やつが、その作品を見てもらえたり認めてもらえたりするような、そういう風にちゃんとやった努力が報われるような、そんなことを手伝えたらいいなと思っている。 「誰か」がいるから頑張れる。そういう「誰か」がいるから、自分とも向き合えるし戦える。それをようやく知れた俺は、前よりすこしだけ、自分を好きになれたような気がする。 「……とくべつ、か」 その「誰か」は、俺にとっての耕太だった。 他の誰でもない、俺の、「とくべつ」。 集中してるのか、iPadからまったく顔を上げずにアップルペンシルをカツカツする耕太を、俺は見る。耕太が「お駄賃」ってくれた、ポッキーを食いながら。 とくべつ。 耕太が俺のとくべつなように、俺は耕太のとくべつだった。 たぶん、出逢ったその瞬間から。 それを俺はやっと言葉としてもらうことができて。 でも……俺はまだ一番ほしいものを、耕太から、もらってない。 「……」 耕太は、今日も、俺を描いてる。 一生懸命。一心不乱に。無我夢中で、俺を描いてる。 ……いつかそれをもらえるのかな。 思う。 いつもと同じような景色の中で、俺は思う。 その「いつか」が叶ったら、俺は本当に心の底から、ばかなことしてた自分を、元気よく笑い飛ばしてやれるのかなって。 「晴樹ー」 「ん~?」 「俺の絵垢、見て」 「んー……?」 でも、今日は、すこし違った。 いつもとすこし違う、でもどうってことない耕太からの催促に、俺はポッキーを口に引っ掛けたまま素直に、スマホを開く。 「──あ」 でもポッキーは、すぐに唇からこぼれ落ちる。 ……そこには、きれいにきれいに、丁寧に丁寧に描き込まれた俺のイラストが、太陽の絵文字つきで、『yomi』のSNSアカウントに──アップされていたからだ。 「──、」 驚いて、顔を上げる。 耕太はまっすぐに、俺を見てる。 「っ……」 呼吸がとまる。 それは、俺が、ほしかったもの。 俺が、ずっと、耕太から。 ほしい、ほしいと、思い続けて、いたもの。 「っこ……こう、た……っ」 声が震える。 目が、熱くなる。 気長に待つつもりだった「いつか」が、突然「いま」訪れて、なにも思考がついていかない。 でも、これが現実だ、って思う。 『yomi』じゃない、『土本耕太』が、ここに描いた現実なんだって、思う。 だから、もう。 俺は、それを、認めるしかない。 それを、受け止めるしか、ない。 「ぃ、いきなりッ、すぎる、だろっ!?」 「ははっ」 かすれて、にじんで、もうギリギリまで湿った俺の必死の反論に、耕太はさっぱりと声を上げる。それは屈託がなくて、どこまでも軽くて、俺の気持ちを本当にわかってるのか、疑いたくなるような反応だ。 「……俺、まだ、晴樹のこと……ぜんぜんうまく、描けないけどさ」 でも、それはすぐに、切り替わる。 俺を眼差す耕太の瞳が、俺を語る耕太の声が、驚くほど真剣な温度を帯びる。 現実なのに。 幻みたいな。 そんなうそみたいな、変化をまとう。 「でも。晴樹は俺の……とくべつ、だから」 そして耕太は。 照れ臭そうに。 でも。 誇らしく。 誇らしく。 「──だから、自慢してやった!」 太陽みたいに、わらう。 「ッ──」 ああ、だめだ。 まぶしい。 くやしい。 うれしい。 もう、泣くのを、がまん、できない。 耕太。耕太。こうた。 うれしいよ。うれしい。 だいすき。だいすきだ。 ありがとう。耕太。 ……だいすき!!!!! 「こぉたっ!!!」 「うわッ!」 俺は勢いよく耕太に抱きついて、耕太と同じように、晴れ晴れと、わらう。 ばかなことした自分を、情けなかった自分を、みじめにうつむいてた自分を、全力で、笑い飛ばす。 そして悩んで、苦しんで、必死になって、ばかみたいに足掻いていた自分に、全力で、笑い掛ける。 「ありがとっ……ありがとっ、耕太っ!」 「ん、俺こそ……ありがとな、晴樹」 はるき。 天中、晴樹。 お前はお前だ。 どんなになにかを羨んでも、お前以外には、なれない。 でも、誰でもないお前だから、お前は土本耕太に出逢えて、いろんなことを経験できて、そして今、そんな幸せに笑えてる。 そしてこんなすごい絵を、こんなすごいやつから、描いてもらえてるんだ。 「……絵、どう?」 でも、そんなすごい絵を、改めて耕太は、抱きついた俺へiPadで見せてくる。なんだか、まだどこか、その絵の出来を不安に思っているように。 ばかだな、耕太。 誰でもないお前が、ずっと、言ってきたんだろ。 誰でもないお前が、さんざん褒めてきたんだろ? 俺だって気にしてなかった俺自身を、お前が、見つけて、選んだんだ。 それなら。 そんなお前の、描いた俺が。 最高じゃないわけ、ないだろ? 「んー。すげぇ、顔がいい」 「……」 だから、って。 自信満々に。 おどけるように応える俺へ、ポカン、と耕太は目を開いて。 「あははっ。そうだよな!」 自分自身を。 高らかに。 笑い飛ばす。 「そうだよな。俺の女神が言うなら、間違いねーよな!」 そして耕太はもう一度アップルペンシルを手にとって、その絵に、なにかを書き込んでいく。さらさらと絵の下へ綴られる文字に、カツっと、画面とペン先のぶつかる音が、青空へと響く。 それは俺を、耕太へと導いた音。 そして俺達を、ここまで導いた音。 「うわっ!」 だから俺はもう一度耕太へ抱きついて、その唇へキスをする。iPadの液晶が太陽に反射して、耕太が描いた俺を、その文字を、キラキラとあざやかに照らし出す。 快晴。好天。 祝福を与えるには、絶好の、幸福日和。 それなら、俺は、精一杯耕太を讃えよう。 だって、俺は、天中晴樹。 土本耕太がかつて選んだ。 土本耕太がいま、記した。 ──たったひとりの、とくべつな女神、なんだから! 『天中晴樹は、ミューズである!』
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