少女騎士団 第九話

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少女騎士団 第九話

少女騎士団 第九話 Das armee Spezialpanzerteam 3, Mädchen ritter Panzer team 8."Hartriegel" Drehbuch : Nuen. 80fefb7f-0c83-4078-829e-c3724d1396ce …………………………  色とりどりの旗と国旗、歓声を大通りの両側に陸軍のパレードが続く。この沿道には、きっと彼らの家族や友人、恋人がいて、いつも汗や泥、汚物まみれの軍服も胸を張れるというものだ。 「二番騎リトです、定時連絡。異常なし」 『ハイイロギツネ了解』  華やかな雰囲気とは対象的に、私たちハナミズキ隊は月華のコクピットから大通りに舞う紙吹雪のなかで、よからぬことを企んでいる輩がいないかと監視していた。愛すべきひとたちをも簡単に殺人鬼として疑える非情さを持ちあわせなければ、軍人として失格だろう。操縦桿を指先、爪でコツコツと叩きオーケストラを指揮する。今日はお祭りだから鼻歌も歌う。 フーンフンフーン♪フーンフーンフンフンフーン♪ 『こちらハイイロギツネ。二番騎リトへ。一四七三から一四七七までの高層階をチェック』 「こちら二番騎リト、了解」  空を隠すように頭上を覆うビルディングを見上げた瞬間、大歓声が沸き起こり、色鮮やかな紙吹雪が、より多く舞った。 …『こちらファブっ。リト、来たよー』 「うん、そうね」  紙吹雪のなか特別色の月華のカウルハッチを開け、身を乗り出した『ヤマザクラ』のアイドルたちが胸を張って、美しく、その誰もが『そうであってほしい少女像』で敬礼をし、進む。 …『こちら三番騎!イリアル!すっごい人気だなあ?リト?』 「あれ以外は何もできない」 …『うっは!言うね!』  ────国営アイドル、少女騎士団。  『ヤマザクラ』や『ヤマユリ』に代表される広報組と呼ばれる彼女たちが持つ信念は、同胞や国民、国を守る為にではなく、自身に浴びせられる歓声の為だけに選んだ力だ。私は三年前の閲兵式まで向こう側にいて、彼女たちと同じ『アイドル』だった。ハナミズキ隊に来て確信したことは、私の望むものはあちら側になかったということ。こちら側から見るあなたたちは、構ってほしいときの猫のような、わざとらしい指先の動きひとつ、表情のひとつをし、気を引く。その仕草に歓声が上がったり、ため息が漏れる反応をさせることだけに力を使い、その与えられた力を使う理由と力が向けられた先の光景が妙で、 「可笑しい」  思わず口にしてしまった。 …『ねえリト。戻りたくないの?』 「ファブ、どうして?私にはハナミズキがある」 …『なんで、そんなにさー』 「いつもイリアルが言ってるでしょう?私は『変人』だからよ」  私は変人、それくらいでいい。  ひとつ大きく深呼吸をし、再びモニタを凝視した。視界のほとんどが紙吹雪に隠され、子どもをさらう魔女が使う霧のようだ。その霧に意識と眼が奪われ、ぼーっとしたときだった。パッ!と光り、続いて空気が大きく振動した。私としたことが霧を見て魔女を見ていなかった。ビルディングの高層階が爆ぜ舞う土埃と、散ったコンクリートとレンガの破片が観衆へ落ちていき、 「避……っ!」  避けなさい、と声にようとした時には、それらが人間を潰して、立て続けにビルディングの高層部が崩れる音が響いた。 パパン!パッ!  乾き弾ける音に月華のカメラを動かすと白と紺の煙が空から大量に落ちてくる。 「こちら二番騎リト!大通り北側一三七五ビルディングで爆発を確認!続けて上空で破裂音と大量の煙!」 『ハイイロギツネ!全騎、武装の安全装置を解除!交戦準備!』  全搭載武器の安全装置を解除し、月華をスタンバイモードから覚まさせる。再び乾いた音が鳴り、次に遠くで大きな爆発音が響いた。群衆の全員が『何か』が起こっていることだけを理解し、歓声から悲鳴へと変わると、パニックとなった人の波が、沿道に設けられたバリケードを突破しそうになっていた。警備兵と警官が押し戻そうとするバリケード。そんなのじゃ、簡単に突破され抑制が効かなくなった群衆から負傷者が出る。私は上空に向けて二発威嚇射撃を行うと、一瞬、静けさを取り戻した民衆が警備兵と警官の声に耳を傾けた。 「リトです!威嚇射撃を二射しました!」 『了…!各騎…移…サッ!を開始!民…人に気…ツィキューヅっ!通りを北へ!』  無線が混線していてティーチャーの声が聴き取り辛い。かろうじて聴こえた『北へ移動』という指示の下、移動を開始する。空を見上げると人間用にしては大きく、戦車用にしては小さいパラシュートが見え機械化騎兵だと判断した。 「こちら二番騎リト!機械化騎兵が降下してくるのを確認!」  ぶら下がっている騎影の総数がわからない。 『了…!北へザーッ!ロ、多数機械化騎兵が展開しているとの情報あり!なッ…ヅーっ!』 『無線周波…ヅー!八〇ポイント一番へ変更!ヅ…ん周波数をヂィ!ザッ!へ変こっ…!』  無線の周波数ダイヤルを回しながら姿勢を低く踏む月華の歩。横目に通り過ぎる『ヤマザクラ』と『ヤマユリ』の月華が、大通りの真ん中でパニックになった群衆から守られるように護衛兵に固められていた。  私が騎士団に入ったのは守る為で、歓声を浴びる為でも守られる為でもない。 『貴女が国を守るって?』  守ってやるさ、私になら出来る。 『あなたみたいな変人には、人殺しの方がいいかもね!』  どうとでも言え、そして、あなたの命が今日もあることを感謝しろ。  守れる資質を持って守られる側に回るなど、嫌悪でしかなかったからハナミズキに来たのだ。守られる月華を見下すよう笑う。 「お可愛いこと」  大通りを北へ進み続けた。ビルディングの間にある小さな公園、くぼんだ場所にナコとイリアルが待機していた。 「待たせた!イリアル、状況は!?」 …『リト!おっそい!もう、この先でファブがおっぱじめてる!』 『機械化騎兵三騎と軽戦車二輌が降りてくるのを見たみたい!』  移動しながらナコとイリアル、三人の持ち合わせる情報を共通させていく。敵の主戦力は機械化騎兵六騎以上と軽戦車四輌以上であること、輸送機からの降下ということから想像するに奇襲だ。敵は、すぐに補給や援護を受けられる線を確保することができないと想像できる。つまり、降下し、瞬間的には孤立している。孤立しているうちに叩かなければ、後に続くだあろう戦力に勢いを与える可能性が高くなる。通りを進んでいくと陸軍兵たちが、私たちに向け手信号、あるいはジェスチャーで逃げ惑う民間人の中を安全に誘導してくれた。煙幕による視界の悪さの中、ファブの月華にも追いつきハナミズキ隊が揃う。 …『こんなにもひとが多ければ展開のしようがない!』  イリアルの言う通りだ。ひとつ向こうの通りは、もっと混乱しているだろう。 キュッ!ッンー…………! 「姿勢を低くっ!!」 …『はッ!!こんな中でも撃ってきやがった!』  相手にとっては早く展開し、打撃を与えられないなら奇襲の意味がない。私たちは混乱のなかでも怯むことなく動かなければならないのだ。混乱を収めるためにも、こちらから突っ込んでいき、中心から外へ戦線を押し出す。 『一番騎ナコですっ!ティーチャー!友軍の戦車隊は展開しているのですかっ!?』 『ッ…ちら!ハ……ッギツネ!…時点で戦車隊はクーデターの嫌疑……ッ……使え……ッ!』  戦車隊が動けない。  どうする、どうしたらいい? 「リトです!相手の元まで走ります!」 『了解……ッ!敵……の交戦を許…ッ!許可だ!晴れ舞台を汚した……ッをつまみ出せ!』 …………………………  情報収集のために訪れた閲兵式本部は、簡易的な司令所となり混乱していた。地図を広げ、各通りを確認する者、必死に各所に連絡を取る者、攻撃の方法で口論する者、民間人の退避が上手くいかず苛立つ者。この状況から分かるのは、ここには永遠に戦火が来ないとでも思っていたらしい。そうあぐらをかいて、机上演習すらしていないからこうなる。本当に想像力のない軍人は使い物にならない。 「まるで陥落寸前の光景だな。どうこう騒いだとて、打つ手は限られているというのに」  テントの隅で煙草に火を点けた。 「こんな時に煙草ですか?………やけに落ち着いていますね?」 「エド、こういう時こそ落ち着いて物事を見極めた方がいい」  煙草の灰を落として煙を吐き、口元を歪める。彼女は大方気付いている、私がどんな人間で、何がしたいのか。想像力がいいのは軍人としていいことだ。 「少佐?」 「やるさ、仕事だからな」  無線機からナコの声が鳴る。 『一番…ナコでッ……ザッ。一三九九を通過』  もう、そんな所まで進んだか。 「こちらハイイロギツネ、了解。一三五〇で再度連絡を」 『了……ッ』  相手は機械化騎兵と軽戦車。陸軍の歩兵を前線に持っていっても効果は薄い。式に出ていた戦車隊は『クーデター防止』の為に、実弾は搭載されていない上、同嫌疑で動かせない。すると、現在、武装しているのは絶対にクーデターを起こさない少女騎士団のみだ。ふんっ、鼻で小さく笑い、右往左往している軍人たちに叫ぶ。 「全員!一度、手を止めて聴いてくれっ!!!!」  一部の人間が私を見た。 「私は特殊機械化隊第三機械化騎士団連隊連隊長リエドロ・アサカ少佐だッ!!!!」  右腕をゆっくり宙高く上げ、それを追うように左腕も上げながら何かを受け止めるように手の甲を見せる。 「戦闘機能を有した我が第八騎士団が、すでに敵戦力殲滅に展開している!!」  こちらに気付いた軍人が手を止め、横にいる軍人の肩を叩き、視線が集まってくる。 「より迅速に指示を出せるよう、制限されている連隊長の指揮権を解除していただきたいっ!!」  抱えるようにしていた両手を大きく、掌も広げ、より大きな声で叫んでやる。 「今、迅速に殲滅しなければ軍人の恥ッ!全国民が誇る私たちの式典を汚した不届き者を、この地から排除できずに貴官らは狼狽えるだけか!?」 「今こそ見せましょう!誇り高き陸軍、我々に天から与えられた国民を守るための力を!!」  彼らが日々軍隊組織で戦闘行為を効率的に運用するために植え付けられた『恥』という幻想に訴えかけ、そして、我々は逃げ出すような事をする者ではない、天から与えられた誇り高き心を持った勇者であり、国や国民を守ることの出来る唯一の人間なのだと、少しずつ、少しずつ、彼らの心の中へと入り込み、蝕む。 「まず!私の第八騎士団から先陣を切って見せましょう!」  いつしか、この国が私にそうしたように、今度は私が犯してやる。 ………………………… 「各騎士団へ!ここからは特機隊第三機械化騎士団連隊長であるリアドロ・アサカ少佐が指揮を執る!以下ハイイロギツネだ」 …『現在、少女騎士団が進行中。各員へ!少女騎士団への支援を続けよ!』 …『現在進行中の隊は第三機械化騎士団連隊、第六騎士団ノウゼンカツラ隊、第七騎士団キンモクセイ隊、第八騎士団ハナミズキ隊。以下、出撃準備、第四騎士団ゲッケイジュ隊、第五騎士団ヒナゲシ隊。以下、出撃不可第三騎士団ハルジオン隊…ザッ』 「各隊各員注意!通信が公開されている。中央指揮、他隊通信時には、先頭に隊名、続けて騎体番号、氏名を付けよ!!」 …『ハナミズキ隊二番騎リトです。改めて交戦条件を問い合わせます』 「こちらハイイロギツネ。交戦条件は民間人の安全が守られた上であれば、設備、自動車、建造物等への損害は問わない。脅威の無力化を優先!無力化を優先だ!」 …『ハナミズキ隊、了解』 …『ノウゼンカズラ隊、了解』 …『キンモクセイ隊、了解』  さあ、舞台の幕は開かれた。終焉まで止まらない劇、私の役目が迎える最終章の始まりだ。 …………………………
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