城門

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城門

 王子とその(きさき)は、小さな王子をさずかりました。今や母親となった娘は、夫にそっくりのまゆ毛を持つ子を腕に抱いて、幸せを噛みしめるのでした。 「お母さんのしたことが、今なら分かる気がします」  妃が明かした胸の内に、王子はうなずきました。 「無償の愛だね。そなたのお母さんはよほど愛情の深い方だ」  妃は目立たぬほど小さく、首を左右に振りました。 「私もこの子のためなら、母と同じことをします。でも身を犠牲にする行為が愛情だけから来ているかというと、違うかもしれません」 「私は母のことを覚えていないから、最近ではそなたが母親のように思えるときがあるよ。その君が言うのだから、母の愛とは私の思うような単純なものではないのだろうね」  王子はライム水で口を湿らせ、前々から考えていたことを口にしました。 「はたして魔女の呪いというのは、まだ続いているのだろうか。私はそなたの母上を探し出し、確かめたいと思う」 「お気持ちは嬉しいのですが、母と私は呪われています。あなたや息子を巻き込むわけにはまいりません」 「そなたの母は、身代わりとなって呪いの一端を引き受けた。私にとって義母(はは)である前に、かけがえのない恩人だ。このまま放っておけるわけがないだろう」  王子妃は感謝の言葉を口にすると、顔を伏せました。  小さな王子は落ちてきた涙で濡れた指を、無邪気にしゃぶって笑い声を立てました。
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