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魔女
魔女は金切り声を上げました。
「いまいましい母娘だよ、まったく」
娘はくるりと向きを変え、母のスカートに顔をうずめました。
コートの内に娘を隠しながら、母は口を開きました。
「なにかご用でしょうか」
声が、かすかに震えます。
「母娘そろって、きれいな顔がしゃくにさわるんだよ。おまけにその娘は、なかなか強運の持ち主だ。よけいに頭にくるね」
「あなた様には、関係のないことではございませんか」
母は娘が初めて聞くような、低い声で応じました。
「関係ない、だって。馬鹿な女だね」
魔女は息苦しさに喘ぐかのように、しゃがれた声を出しました。
「その娘、二十歳になるころには、お城に住まう身になるよ。あたしが追ん出された、あのいまいましい城にね」
黒衣の魔女は王妃亡きあと、王の後添えとなりました。豪勢で満ち足りた日々を送っていたはずですが、何を思ったか、幼い王子を暗殺しようとしたのでした。
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