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王妃の忘れがたみに害を為そうとしたことが明るみとなると、王は激しく怒りました。そうして魔女は、身ひとつで城壁の外へ放逐されたのです。
「王宮こそ、あたしが居るべき場所なんだ。それを追い出すなんて! 王も王子も呪われてあれ」
魔女がつぎつぎと吐き出すののしり言葉を耳にして、娘の胸は芯から凍りつきそうになりました。
「おやめください。子どもがいるのですよ」
「わざとだよ、決まってるだろ。おまえの娘に呪いをかけてやる。王子なんぞに、毛ほども喜びをくれてやるものか」
言うが早いか、魔女は母親の手から娘を引ったくりました。恐怖で声も出ない娘の頭に手を置き、声高に告げたのです。
「吾、黒衣の魔女のすべてをかけて、呪いを定める。この者が幸せであるかぎり、王子は不幸せとなろう。王子が幸せであるかぎり、この者が幸せになることはない」
娘は雷に打たれたようになって、気を失いました。くずおれる娘をすくい上げ、母はいちもくさんに走り出します。
「馬鹿な女だ。走って逃げたって無駄さ」
狂ったようにあざけり笑う、魔女の声が遠のきます。母は歯を食いしばり、足を休めることなく、女神の社へ向かいました。
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