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「俺ぁ、家族というものは糞くらえだと思っていた。女が欲しければ犯すし、まあ男でも穴はあるから、女がいなければまた犯す。男は犯されると、自分が虫けら以下になった気がするようで、嫌いな奴は犯してから殺す。だが、毘沙門天に限っていうなら、俺はなあ…、なにがなんでも俺の女房にしたくなってしまったのだ。他の奴らに指一本触れさせるのも怖気が走る。可愛い可愛い阿修羅も、俺の子だ。だが、どうしたらいいんだ。あいつは俺にちっとも笑ってくれやしないんだ」
そりゃあ、当然の話だろう。
妻を殺され、自分は犯され、息子は憎い男であるインドラに懐いているのだもの。
今にも自害したかったろう、それだのに息子の為にそれも許されず。
そんな毘沙門天の気持ちをインドラは解らなかった。解らないが故に献身的になった。
インドラは毎夜、毘沙門天に膝まずき、愛の言葉を語る。そして毎朝毘沙門天の髪を櫛ですいてやり、紅をひき阿修羅を肩に乗せて家を出る。二人の営みも、もう毘沙門天は抵抗しなかった。
試合があれば彼は阿修羅をリングの横に置いて勇猛果敢に戦った。愛する家族の為に彼は勝ち続けなければならないのだ。実際インドラの対戦相手は不幸だった。彼は随分勝ち続けた。その様子を阿修羅はじっと見つめていたのだ。
阿修羅が三歳になった頃、阿修羅はインドラに木刀を渡された。型にはまった剣術ではなく、実践で使える力をインドラは阿修羅に与えたかったのだ。阿修羅は素直に木刀を振るった。また、素手でいかに獲物を仕留めるか、また、もし試合に出た時の必勝法なども教えた。
インドラは阿修羅が上からの気まぐれで阿修羅が試合に出される事を危惧していたのだ。自分がいつ負けて死ぬかも解らない世界だ。力をつけさせなくては。
阿修羅は抜群のセンスだった。毘沙門天を父に持ち、吉祥天を母に持ち、育ての親はインドラなのだ。
インドラは人の倒し方は知っていたが、読み書きは不得意だった。万が一阿修羅が外に出た時の事を考えて、儂に阿修羅の読み書きの手習いをしてくれと言い出した。儂は快諾したよ。インドラは好きになれなかったが、阿修羅を想って頭を下げる父親の顔をしたインドラは嫌いではなかったからだ。
儂は教えたよ。読み書きから儂の知っているすべてを。阿修羅がここから飛び出してしまうまでには随分と時間があったから。
儂が生きて、知り得た物を全てくれてやったよ。もし儂が死んでも、儂が生きた証を誰かに繋げておきたかった、というエゴもある。
すると他の連中も阿修羅に一つ一つ、教え始めた。
折り紙、缶けり、鬼ごっこ。
習字、英語、お歌の稽古
偉人の話、空想の話、社会の話、歴史の話
道徳、理科、社会、算数、国語、
棒術。ボクシング。
中国拳法、体術、合気道、居合、何百とあるあらゆる格闘技が阿修羅の中で混じる。
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